つア妙じゃアございませんか、これが突込《つっこ》んだ儘《なり》で有るんでがすが、悉《そっ》くりお両方《ふたかた》の紋が比翼に付いて居るてえのは何うも妙で、一寸《ちょっと》これは何うです旦那……」
 手に取り上げて庄三郎が恟《びっく》りいたした。まだ是は美代吉には話をせずに自分の心の中《うち》の惚気《のろけ》に、美代吉の紋と吾が紋を比翼に附けて誂《あつら》えた鉈豆の煙管、去年の九月四日の夜《よ》、妻恋坂の下で、これは慌てゝ取り落したものだが、何うして此の車夫《くるまや》が持って居るかとぎっくり胸に応《こた》えましたが、側にお美代が居るから、
庄「お美代お前《まえ》と己の紋が有る、似た紋も有るが不思議じゃアねえか、不思議じゃアねえかよ、えゝ悉《そっ》くり二人の紋が付いてるとは是りゃア不思議じゃアねえか」
美「誰の」
庄「誰のだか分らねえ……車夫《くるまや》さんお前《めえ》がそれを持とうというのか」
車夫「わっちが持って居たって仕様がねえんでがすが、あなた紋が悉《そっ》くり附着《くッつ》いて居やすが、お廉《やす》く何うか廉くお買いなすって下さりア有難てえんですがな、わっちが質屋なんぞに持って往《ゆ》きますと手数が掛っていけませんや、そっくり貴方の御定紋《ごじょもん》だから持って入らっしゃりゃア私《わっち》が是を拾ったとも云いやせんが」
庄「買っても宜《い》いけれども幾許《いくら》で売ろうてえのだ」
車「こんな物で、幾許でも宜うがす、まア人に聞いた処の価値《ねうち》は五十両が物は有るってえので」
庄「なにが、冗談いっちゃアいけねえ、無垢《むく》の煙管の誂えで、何《ど》んなにしたって、何う目方が附いたって五十両なら出来るじゃアねえか、こればかりの鉈豆の煙管を五十円遣って買う奴が」
車「たゞの煙管とは違うんで、紋がちゃアんと御新造様の紋とあなたの紋と比翼に付いて居るとこがこいつの価値《ねうち》だ、はゝア誂れえりゃア出来るが、わっちが持って居るといけねえものだ、持って居れば拠《よんどこ》ろなく訴えなければならねえ、去年の九月四日の晩、妻恋坂下の建部…………サだからって」
庄「む……なに」
車「拾った処《とこ》を云わなければならないが、御迷惑が掛っちゃア済まねえから、売りてえのを我慢して、何うか御当人にお渡し申してえと思って、今まで腹掛の隠《かくし》に突込《つッこ》んでいた所が、何
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