が何とか云いましたっけ、治平《じへい》[#ルビの「じへい」は底本では「じへん」]さんかえ、武骨真面目なお方で、※[#「口+云」、第3水準1−14−87]《うん》とお店に坐っている様子てえものは、実に山が押出《おしだ》したような姿で、何となく気がつまりましたから、裏口から這入ってお内儀《かみ》さんにお目通りを致しましたが、坊ちゃんは大層大きくお成《な》んなさいましたな」
旦「彼《あれ》は坊じゃない嬢だよ」
三「へえお嬢さんでげすか、そう仰しゃれば何処かお優しい品の宜《よ》いところが有りましたよ」
旦「何うも君は押付けたような事をいうのが面白い……君に出会ってこのまゝ別れるのは戦争《いくさ》の法には無《ね》えようだから、何《どう》だえ何処かでお飯《まんま》を喰《た》べてえが付合わねえか」
三「これは恐れ入りやすな、私《わたくし》の腹の空《へ》った顔が貴方にちゃんと解るなんてえのは驚きやしたなア、何うか頂戴致したいもので」
旦「君何処へ往ったのだえ」
三「なに少し大茂へちょいと」
旦「周旋かえ」
三「いえ然《そ》うじゃア無いんですが、方々へ種々《いろん》な会がありますと、ビラなんぞを誂《あつら》えられてるんでげすが、御飯《ごはん》を召上るてえなら是非此処じゃア松源《まつげん》さんでげしょう」
旦「松源てえば彼処《あすこ》で五六|度《たび》呼んだ小《こ》しめだのおいとだのと云う好《い》い芸者の中《うち》で、年若の何とか云ったッけ、美代《みよ》ちゃんかえ」
三「えゝ美代ちゃん、へえ美代吉《みよきち》」
旦「彼《あれ》は好い娘《こ》だね、品が有って実にお嬢さん然として居るね」
三「成程|彼《あれ》は旦那のお気に入りましょうよ、旦那は種々《いろん》な真似をなすって諸方で食散《くいちら》かして居らっしゃるから、却《かえ》ってあんなうぶなお嬢さん筋で無くちゃアいけますまい、彼は極《ごく》温順《おとなし》くって宜うございますから、お浮《うか》れなすっちゃアどうです」
旦「君は直《すぐ》に然《そ》う取持口《とりもちぐち》をいうから困るよ、併《しか》し色気は余所《よそ》にして何となく何うも己《おれ》は彼《あれ》が慕《した》わしいね」
三「美代ちゃんも然ういって居ますよ、美代ちゃんも旦那の事ばかり蔭で褒めてまして、あんな好《よ》い旦那は無い、あの旦那に会うと何となく心嬉しいてッてます」
旦「
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