の人とも手紙の遣り取りをして交際《つきあい》をするものだがね、久馬様はおなくなりになって、惣領のお兄《あに》いさまは上野の戦争で討死《うちじに》をなすったということを聞いたが、お母さんは未だ御存生《ごぞんしょう》かえ」
美「何もかも旦那はよく御存じですが、私《わちき》は母と一緒に上野の先の箕《み》の輪《わ》という処へ参りましたは、前々《ぜん/\》勤めていた家来の家《うち》で有りますから、そこへ往って暫く厄介になって居ます内に、母が煩《わずら》い付きましたが、長煩い故病院へ入れる事も出来ませんようになったので、仕方なく私はこんな処へ這入りましたが、その甲斐もなく一昨年《おとゝし》の十一月なくなりましたよ」
旦「え、おかくれかい、それじゃアまアお母さんを救うためにお前は芸者になって、云いつけもしない世辞をお客に云って居るのだろうが、宜くまア親のために苦労をして居るねえ」
美「はい、私《わちき》は外《ほか》に親戚《みより》頼りも有りませんが、只《たっ》た一人|仲《なか》の兄のある事を聞いて居ましたが、若い時分道楽で、私が生れて間もなく勘当になって家出をしましたそうですが、随分気性な人ゆえ戦争《いくさ》にでも出て討死もしかねない気性ですから、大方死んでゞもしまったろうと常々|母親《おふくろ》が申して居りましたが、その兄さえ達者なれば会う事も有りましょうが、尤《もっと》も小さい時に分れたのでございますから、途中で会っても顔は知れませんけれども、何卒《どうぞ》して生きて居るなら、その兄に会いたいと思いまして弁天様へ願掛《がんがけ》を致して居りますけれども、いまだに知れませんから、本当に私は独りぼっちでございます」
旦「然うかえ、お前が生れて間もなく分れた兄《にい》さんだから、顔形も知れまいが親身の兄と思えばこそ然うやって神信心《かみしんじん》をして会いたいと願掛までして居ればこそ、ふといやなに…屹度《きっと》会うような事になるに違いないが、その事を兄《あに》さんが聞いたら嘸《さぞ》悦ぶだろう、然うかえ……どう云うわけだか松源へ初めてお前を呼んだ時から、何となく私《わし》の子のように思われて可愛いと思ったが、妙なものさね」
三「へえ美代ちゃんは久馬様のお嬢さんなんでげすか、道理で初めから久馬様の相が有りましたよ、何かその遊ばせ言葉などの所は違《ち》げえねえ、成程七百石のお嬢さまな
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