何うも由良之助見ていな事をおっしゃったが、その帰りに與市兵衞《よいちべえ》見ていに殺されるていのは何うも分んねえ」
美「殺されたのならば私も何うも残念で耐《たま》りませんよ」
ふみ「私も何うも人手に掛ったと存じますが、もし殺した奴でも分ったら、眼が見えなくとも武士の家《いえ》に生れた女、亭主の仇《あだ》を尋ね探して討ちたい心も有りましたが……あゝ斯様に盲人《めくら》に成りましては」
美「おゝ不思議な御縁でお目に懸りました、私の兄の女房なら私の為にはやっぱり姉《ねえ》さん、兄《あに》さんの敵だって討てない事は有りません、ねえ庄さん、お願《ねがい》ですから若しも敵が知れましたら、藤川さん貴方も以前はお旗下《はたもと》ではありませんか、たとえ女の細腕でも武士の家に生れた私です、一生懸命になりますから、助太刀して、屹度《きっと》知れたら、敵を捜して討たして下さい」
というのを聞いて居りましたおとよが七歳《なゝつ》では有りますが、怜悧《りこう》な子でありますから、
豐「お母《っか》ちゃん、お父《とっ》ちゃんを殺した奴が有れば、豐ちゃんも敵を討ちます、この叔父ちゃんに手伝って頂いて、ね叔父ちゃん手伝って敵を討たして下さいよ」
ふみ「あい/\よくお云いだ/\、死んだお父さんが草葉の蔭で聞いたらさぞお喜びなさるだろう………親孝行の事を云っておくれだ」
三「へい感心々々感心」
ふみ「只今の世の中では敵を討つことの出来ない世の中とは予《かね》て聞いては居りますが私は昔風で、何うか敵を討ちとうございます、もし敵が知れたらば私さえ殺されゝば宜しゅうございましょうから、何うぞ敵を討たして下さいまし」
三「まア/\感心だ、実に年は往《ゆ》かないが、是は矢張《やはり》松山さんのお胤《たね》だけ有って、私ア聞いて居てぽろりと来ました、いやこれは誰でもポロときますよ、私はね芝居でも世話場でちょっと此様《こん》な子役の出る芝居へ往って見物していると、子役が出て母様《かゝさま》というと、まだ何だか解らない中《うち》にぽろ/\と直ぐお出でなさる、誠に何うも恐れ入りました」
庄「三八さん、此の親子の衆は私《わし》が引取って又敵を討たせる時も有ろうし、何《なん》にしても親切にしておくれで、今夜は雪が降るからお泊め申すから、安心して置いて帰って下さい」
三「有難う、だから此方《こちら》に参ると申したんです、有
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