《ところ》で非業の死をいたし………是も乱暴の罰《ばち》でございましょうが、殺した奴は何者でございますか、多分|御酒《ごしゅ》を飲んで暴れか何か致して斬り殺されてしまいましたのでございましょう、その検屍の事から葬式も此の難儀の中で私《わたくし》が出す様な事でございまして」
三「へいえ何うもお不仕合せ、なれども御新造さんは根が武士のお嬢さんだから何うもと平常《ふだん》私が申して居りました、一昨年《おととし》花の時に御新造様の御様子が何うも町人とは違いますと云いますと、旦那が、えゝなアになんて瞞《ごま》かして仰しゃらなかったが、何うも違うと思って居りました、兄様《あにさん》と云うのは酷《ひど》うございますね、一体何をしてお居でなさったので」
ふみ「はい、零落《おちぶれ》まして車を挽《ひ》いて居りました」
三「車夫《くるまや》を殺して何も盗《と》る訳もないのですからな、何うも中に筒ッぽの古いのが丸めて這入ってるだけですからな」
ふみ「はい、矢張《やっぱり》お酒を飲むかなんかして、暴れて斬られたのでしょう……あれが」
三「いえ何うもそれに、あなたの処の旦那の何うも腹切りが、何うしても、分らないというのです、そりゃア何方《どちら》でも評判です、あのように沈著《おちつ》いて居る方がね何うも」
美「ちょっと三八さん、あの何だね、一昨年《おととし》の九月四日にね………贔屓だって情夫《いろ》でも何でも無いのですが………あの晩にお帰りなさらなきゃア彼様《あん》なことは無いものを……あれをお帰んなすった晩だよ」
三「そうですな、何ういう訳でがしょうな、あれは」
ふみ「はい何うも御検屍を願いまして腹を切ったという事には成りましたけれども、もう実は仰しゃる通り沈著者《おちつきもの》で、種々《いろ/\》に分別して、人という者は事を落著《おちつ》け心を静めて見れば、何《ど》んな事でも死なずに済むものだと申して、己《おれ》なんぞは是まで苦労をして来たから何んな貧乏に零落《おちぶ》れても困りはしない、又工面が宜く成っても困りはしない、何でも詰らない事をくよ/\思うな、心を広く持ってと、一寸寝酒を飲みましては私共の心の落著くように云ってくれまする、貯えて居りました金子は他人《ひと》の預かり物ですが、それが有りませんでしたから、多分|盗賊《ものどり》だろうと思います、それに金側《きんがわ》の時計がございま
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