い結構《かゝり》がない、玄関正面《げんくわんしやうめん》には鞘形《さやがた》の襖《ふすま》が建《たて》てありまして、欄間《らんま》には槍《やり》薙刀《なぎなた》の類《るゐ》が掛《かゝつ》て居《を》り、此方《こなた》には具足櫃《ぐそくびつ》があつたり、弓《ゆみ》鉄砲抔《てつぱうなど》が立掛《たてかけ》てあつて、最《い》とも厳《いか》めしき体裁《ていさい》で何所《どこ》で喫《たべ》させるのか、お長家《ながや》か知《し》ら、斯《か》う思ひまして玄関《げんくわん》へ掛《かゝ》り「お頼《たの》ウ申《まうし》ます、え、お頼《たの》ウ申《まうし》ます。「ドーレ。と木綿《もめん》の袴《はかま》を着《つ》けた御家来《ごけらい》が出て来《き》ましたが当今《たゞいま》とは違《ちが》つて其頃《そのころ》はまだお武家《ぶけ》に豪《えら》い権《けん》があつて町人抔《ちやうにんなど》は眼下《がんか》に見下《みおろ》したもので「アヽ何所《どこ》から来《き》たい。「へい、え、あの、御門《ごもん》の処《ところ》に、お汁粉《しるこ》の看板《かんばん》が出《で》て居《を》りましたが、あれはお長家《ながや》であそばしますのでげせうか。「アヽ左様《さやう》かい、汁粉《しるこ》を喰《くひ》に来《き》たのか、夫《それ》は何《ど》うも千萬《せんばん》辱《かたじけ》ない事《こと》だ、サ遠慮《ゑんりよ》せずに是《これ》から上《あが》れ、履物《はきもの》は傍《わき》の方《はう》へ片附《かたづけ》て置け。「へい。「サ此方《こつち》へ上《あが》れ。「御免下《ごめんくだ》さいまして。……是《これ》から案内《あんない》に従《したが》つて十二|畳《でふ》許《ばかり》の書院《しよゐん》らしい処《ところ》へ通《とほ》る、次は八|畳《でふ》のやうで正面《しやうめん》の床《とこ》には探幽《たんにゆう》の横物《よこもの》が掛《かゝ》り、古銅《こどう》の花瓶《くわびん》に花が挿《さ》してあり、煎茶《せんちや》の器械《きかい》から、莨盆《たばこぼん》から火鉢《ひばち》まで、何《いづ》れも立派《りつぱ》な物ばかりが出て居《ゐ》ます。「アヽ当家《たうけ》でも此頃《このごろ》斯《かう》いふ営業《えいげふ》を始めたのぢや、殿様《とのさま》も退屈凌《たいくつしの》ぎ――といふ許《ばかり》でもなく遊《あそ》んでも居《ゐ》られぬから何《なに》がな商法《しやう
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