何うも余事にわたって恐れ入りました。扨《さ》て伊之助でございますが、お若さんが連れて逃げてくれろと申しましたを、義理だてをして捗々《はか/″\》しく相談に乗らないところから、男を諾《うん》といわする奥の手をだし、自害の覚悟を示したのでありますから、伊之助も最《も》う是非がございません。
 伊「えい危ない、何《なん》だってそんな真似を、まアこれをお放しなさいよ、はなしは何うにでもなることだから」
 若「いゝえ、お前さんは私に飽きたから、それで」
 伊「これさ、まアそんな強情をいわずと、あゝ困るなア、あゝまた、危ない/\、逃げろなら逃げもするから、まア刄物はお放しなさい」
 若「それでは屹度《きっと》だね、屹度一緒に逃げておくれだねえ、屹度……屹度」
 伊「あゝよろしい、仕方がない、逃げますとも/\嘘をつくもんですか」
 と漸《ようよ》うお若を宥《なだ》めましたんで、ホッと一息つき、それでは手に手をとって駈落と相談は付けたものゝ、たゞ暗雲《やみくも》に東京《こちら》をつッ走ったとて何処《どこ》へ落著《おちつ》こうという目的《めど》がなくてはなりません、お若と伊之助はいろ/\と相談をしますが
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