は別人ではございません、そゝっかしやの鳶頭《とびがしら》勝五郎でげすから、ハッと驚きましたが、まだしも伯父の晋齋でないだけが幾らか心に感じ方が少ないと申すようなものではあるが、何《なん》にいたせ二人とも面目ない始末……とんだところへと赤面の体《てい》で差しうつぶいて居ります。勝五郎も驚きましたね、まさか伊之助が此処《こゝ》へ来ていようとは夢にも思いませんから、暫くはじろり/\二人の様子を見ておりましたが、
 勝「師匠……いやさ伊之さん、まア何うしたんだ……何うして此処に来ているんだ」
 と申して膝を伊之助の方へすゝめますが、何《なん》とも返答をいたす事が出来ないんで……矢ッ張黙ってモジ/\と臀《いしき》ばかりを動かし、まるで猫に紙袋《かんぶくろ》をきせましたように後《あと》ずさりをいたしますんで、勝五郎は弥々《いよ/\》急《せ》きたちまして、
 勝「エ、何うしたんだな、お前《めえ》さんがこんな戯《ふざ》けた真似をしちゃア済むめえが、お前さんばかりじゃねえや、私《わっち》が第一《でえいち》お店《たな》に申訳がねえ、手切金までとって立派に別れておきながら……何《なん》てえこったアな、オイ伊之さん何うしたんだ」
 と今にも掴《つか》みかゝらんとする権幕でげすから、お若さんも恟《びっく》り、黙っていられません。
 若「鳶頭《かしら》、そんなにお云いでないよ、伊之さんが悪いんじゃないから、これというも皆《みん》な私の心からで無理に伊之さんを呼びこんだのだよ、何うした因果か知らないが、何うも伊之さんのことばかりは思い切ることが出来ないんだからね」
 勝「ヘエーお嬢さんから、野郎を引ずり込んだと仰しゃるんでげすか」
 若「お前さんでも貞婦《ていふ》両夫に見《まみ》えずということがあるは知ってるでしょう、私だって左様《そう》だわ、一旦伊之さんとあんな交情《なか》になったんだもの、世間の義理で切れましょうと云ったって、心《しん》から底から切れるなんかッてえ気は微塵もありゃアしないのさ、ひょんなことがあったからね、これでは伊之さんに邂逅《めぐりあ》っても愛想をつかされるだろうと悲しく思ってるを、伯父さんは些《ちっ》とも察してくれず、お嫁にゆけのなんのというじゃないか、私の良人《おっと》は三千世界に伊之さんより外にないんだものお前、仮令《たとえ》嫌われたって愛想をつかされたって、二人の良
前へ 次へ
全79ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング