てダヾを捏《こ》ねはせまいかと心配致し、ジッと顔をながめ挙動《ようす》をうかゞって居りましたが、伯父様のよいようにと思い切った模様ですから、まアよかった得心して呉れて、と胸を撫で、
晋「あゝそれがいゝよ、己に任しておきな、悪いようにはしないからね、お前が左様《そう》諦めてくれゝば結構な訳というもんで……、実はな、大阪の商人《あきんど》で越前屋佐兵衞《えちぜんやさへえ》さんてえのが、御夫婦連で江戸見物に来ていなさるそうでの、何《なん》でも馬喰町《ばくろちょう》に泊ってると聞いたよ、この方がの最《も》う四十の坂を越えなすったそうだが、まだ子供が一人もないから、何うか好《い》い女の児《こ》があったら貰って帰りたいと探していなさるそうだよ、大阪《あっち》で越佐《えつさ》さんと云っては大した御身代で在《いら》っしゃるんだからね、土地で貰おうと仰《おっし》ゃれば、網の目から手の出るほど呉れ人《て》はあるがの、佐兵衞さんてえのは江戸の生れなんで、越前屋へ養子にへえッた方だから、生れ故郷が恋しいッてえところでの、江戸から子供を貰って帰ろうと仰しゃるんだとさ、それにお内儀《かみ》さんというのも飛んだ気の優しい方だと云うことだから、米もそんなとこへ貰われて行けば僥倖《しあわせ》というもんだろうと思われるし、世話するものがお前もよく知っているあの鳶頭《かしら》だからの、周旋口《なこうどぐち》をきいてお弁茶羅《べんちゃら》で瞞《ごまか》す男でもないよ、勝五郎も随分そゝっかしい事はあの通りだが、今度のことア珍しく念を入れて聞いてきたよ、あゝ、そりゃ間違いはないよ、こんな口は又とないからの、お前さえよくば直ぐ話しをさせて、貰って頂こうと思うんだがね」
若「はい、伯父様さえよいと思召したら、何うかよいように遊ばして……」
晋「よし/\、それでは承知だね、ナニ心配することはないよ」
と晋齋は直ぐ勝五郎を呼びに遣りました。さて鳶頭の勝五郎でございますが、今町内の折れ口から帰って如輪目《じょりんもく》の長火鉢の前にドッカリ胡坐《あぐら》をかき、煙草吸っているところへ、高根のおさんどんが、
婢「鳶頭お在《いで》ですか、旦那様が急御用があるんだから直ぐ来ておくんなさいッて……」
勝「何うも御苦労さま、直ぐ参《めえ》りやす、お鍋どんまア好《い》いじゃねえか、お茶でも飲んでいきねえな、敵《かたき》
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