男は伊之吉《いのきち》女はお米《よね》と名を付ける事になりました。茲《こゝ》に一つ不思議なことには伊之吉お米で、双児というものは身体の好格《かっこう》から顔立までが似ているものだそうで、他人の空似とか申して能く似ているものを見ると、あゝ彼《あ》の人は双児のようだと申しますから、真物《ほんもの》の双児は似る筈ではございますが、男と女のお印が違っているばかり、一寸《ちょっと》見ると何方《どちら》が何方かさっぱり分りかねるくらい、瓜二つとは斯《こ》ういうのを云うだろうと思われ、其の上|両児《ふたり》とも左の眼尻にぽッつり黒痣《ほくろ》が寸分違わぬ所にあります。これが泣き黒痣という奴で、この黒痣があるものは何うも末が好《よ》くないと仰しゃる方もあり、親が子の行末を案じるは人情|左様《そう》ありそうな事で、お若はそんなこんなで大層|両児《ふたり》を可愛がりますから、伯父の晋齋はます/\心を痛め、或日《あるひ》お若が前に来て、
晋「赤児《あか》は何うしたね」
若「はい、今すや/\寝つきましたよ、伯父さん本当《ほんと》に妙ですことねえ、この児達は、泣き出すと両児一緒に泣きますし、また斯うやって寝るときもおんなしように寝るんですもの、双児てえものア斯ういうもんでしょうか、私ゃ不思議でならないんですわ」
晋「そうさな、己も双児を手にかけたこともなし、人から聞いたこともないから知らないよハヽヽヽヽ、赤児《あか》が寝ているこそ丁度幸いだ、今日はお前に些《ちっ》と相談することがあるがの、それも外のことじゃアない矢ッ張赤児の事に就《つい》てな、此様《こんな》事を云ったら己を薄情なものと思うだろうが、決して悪くとられちゃア困るよ、それもこれもお前の為を思うから云うのだからね」
若「ハイ、何うしまして飛《とん》でもない心得違いから、いろ/\伯父|様《さん》に御苦労をかけ、ほんとに申し訳がないんですわ、それに私の為を思って仰しゃることを何《なん》でまア悪く思うなんッて」
晋「イヤお前が左様《そう》思ってゝ呉れゝば己も安心というものだがの、斯《こ》う云ったら心持が悪かろうが、その赤児だッて……、あの通りな訳で生れたもので見れば、何うもお前の手で育てさせては為になるまいし、今|一時《いっとき》は可愛そうな気もしようが、却《かえ》って他人の手に育つが子供|等《ら》の為にもなろうと思われるよ、仮
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