して寐《ね》かそうと思うからでげすが、海上も花里の挨拶が※[#「※」は、「煮」の旧字体の「よってん」にかえて「火」、第3水準1−87−52、512−2]《に》えきりませんから、今夜は是非とも承知させて身請をしよう、大袈裟に身請しては余計な散り銭も出ることでげすから、成るべくは親元身請にいたし、幾分でもそこのところを安くと考えていらっしゃるんですから、中々お酒も例《いつも》のように召あがらない。新造が傍に居りますときは左様《そう》でもありませんが、差向いになると身請の相談で、ひそ/\と囁《さゝや》いているのは誠に親密らしい。斯うなってはお座敷が長く容易に引けませんので、花里は気が気ではありません、海上を寐かせておいて直ぐ伊之吉の名代《みょうだい》へ参ろうとぞんじても、これでは果しがつかないから、
花「ねえ海上さん、こんな相談をするには緩《ゆっ》くりしなけりゃア落付かないから、あとで」
海「ウムそれもいゝが、何をいうにもお前が全盛な花魁だから、中々ゆる/\話してることが出来ないじゃないか、少し話しかけると廻しに出ていくしさ、おばさん[#「おばさん」に傍点]が迎いに来るかとおもえば、また拍子《とき》で出られるしよ」
花「そりゃ勤めの身だから仕方がないわ、私がいくら貴方の傍にばかり居たくッたって、お部屋で喧《やかま》しいから堪忍して下さいよ、本当《ほんと》にそれを言われるといかにも不実でもするようで済まないが、こんなものでも女房にしてやろうというお思召《ぼしめ》しがあるんだからねえ、私だッて何様《どんな》に嬉しいか知れやしませんわ、あなたが浮気ッぽいからそれが今からの取越苦労になって、末が案じられるんでねえ、海上さんとっくりお前さんの心をきいた上でなくッちゃア」
とじろりと見ますれば、お座なりで言われているとは存じませぬ海上渡さん、熱心に花里の言葉をきいていらッしたが、道理《もっとも》とお思召したやら、うなずいてお出《いで》になるはしめたと、
花「海上さん、まだお酒をめし上りますか、もういゝでしょう、折角話を為《し》ようと思うころにグウ/\寐られて仕舞っちゃア、ホヽヽヽヽ」
海「ハヽヽヽヽ何うして寐られるもんか、床番させられても起きとるわ」
花「それじゃアお引けにしましょうね」
ポン/\と手をならしますと、新造がかけて参り、
新「何うもすみません」
花「
前へ
次へ
全79ページ中59ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング