《ぜ》ッ非《ぴ》来てくれと吐《ぬ》かしアがッてよ、己《おい》らが面を見せなけりゃア店も引くてえんだ、本ものだぜ、鯱鉾《しゃちほこ》だちしたって手前達《てめえたち》に真似は出来ねえや、ヘン何《ど》んなもんだい」
 八「笑かせアがらア、若大将《わかてえしょう》に胡麻すりアがって脊負《おんぶ》のくせに、割前《わりめえ》が出ねえと思って戯《ふざ》けアがると向う臑《ずね》ぶっ挫《くだ》かれねえ用心しやアがれ」
 熊「ヘン嫉《そね》め、おたんちん[#「おたんちん」に傍点]、だがな八公、若大将にゃア気持が悪くなるてえことよ、阿魔|奴《め》でれ/″\しアがって、から埓口《らちくち》アねえ」
 八「阿魔アッて品川の奴《やつ》か」
 熊「そうよ、玉和国の花里てえ素敵もねえ代物《しろもの》よ、夏の牡丹餅《もだもち》と来ていアがるから小癪《こじゃく》に障《さわ》らア、な一晩行って見な、若大将の※[#「※」は「「疑」のへんの部分+「欠」」、第3水準1−86−31、502−4]待《もて》かたてえものはねえぜ、ところでよ、此方《こっち》の阿魔と来たら三日月様かなんかで、刻莨《きざみ》の三銭がとこ煙《けむ》よ、今度ア行《ゆ》くにゃア二つと燐寸《まち》まで買ってかねえじゃア追付《おっつ》かねえ、これで割前《わりめえ》勘定だった日にゃア目も当てられねえてえことよ」
 八「風吹《かざふ》き烏《がらす》の貧《びん》つくで女の子に可愛がらりょうとア押《おし》が強《つえ》えや、この沢庵《たくあん》野郎」
 熊「こん畜生《ちきしょう》ッ」
 なんかと伊之吉の事から朋友《ともだち》喧嘩が起《おこ》るというようなさわぎ。伊之吉も凝《こ》って品川通いを始めますると、花里の方でも頻《しき》りと呼ぶ。呼ばれますから参る。まいりますからます/\深くなるという次第で、伊之吉が来ると岡焼半分に外の女郎が花里にからかいます。トントン/\と登《あが》るをすが籬《がき》のうちから見て、あゝ来て呉れたなと嬉しく飛立つようですが、他の張店《はりみせ》している娼妓の手前もありますので、花里は知らぬ顔していても眼の早い朋輩が疾《と》ッくに見附けていますから堪りません。
 娼「花里さん来たよ、早く側へ往っておあげよ、そんなにシラを切《きら》なくッてもいゝわ、モウ気は部屋へ行ってるんだよ、呆れたもんだねえ、花里さんの抜殻《ぬけがら》さんや、オイ
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