して申訳なく、二つには彼《あ》のような悪漢を生け置く時は、此の後《のち》どのようなる悪事を仕出来《しでか》すかも知れぬ、さぞ町人方が難渋するであろうと思いますと、矢も楯《たて》も堪《たま》らず、彼等の命を絶って世間の難儀を救うに若《し》かずと決心いたし、去《さん》ぬる十五日の夜《よ》、御法度《ごはっと》をも顧《かえりみ》ず、蟠龍軒の屋敷へ踏込《ふんご》み、数人の者を殺害《せつがい》いたし候段重々恐入り奉ります」
奉「蟠龍軒が悪人ならば上《かみ》に於て成敗いたす、悪人だから切殺したと申すは言訳にはならぬぞ」
文「恐入ります、言訳にならぬは承知の上、如何様《いかよう》とも御処分を願います」
奉「其の夜《よ》如何《いかゞ》致して忍び込み、如何《いか》にして殺害いたしたか、詳しゅう申立てえ」
文「其の夜の丑刻《こゝのつ》頃庭口の塀《へい》に飛上《とびあが》り、内庭の様子を窺《うかゞ》いますると、夏の夜とてまだ寝もやらず、庭の縁台には村と婆《ばゞ》の両人、縁側には舎弟の蟠作と安兵衞の両人、蚊遣《かやり》の下《もと》に碁を打って居りました、よって私は突然《いきなり》女ども両人を切らば、二人の奴らが逃げるであろうと斯《こ》う思いまして、心中《しんちゅう》手順を定《さだ》め、塀より下り立ち、先ず庭に涼んで居りました村と婆を後《うしろ》へ引倒し、逃げられぬように手早く二人の足に一刀を切付け、それから縁側の両人を目がけて其の場に切伏せ、当の敵たる蟠龍軒は何処《いずく》にありやと間毎《まごと》々々を尋ねますと、目指す敵《かたき》の蟠龍軒は生憎《あいにく》不在と承知いたし、無念|遣《や》る方《かた》なく手向う門人二三を打懲《うちこ》らし、庭に残して置きました村と婆を切殺して其の儘帰宅致しました、このお村という奴は顔に似合わぬ毒婦にて、二世《にせ》を契った夫友之助を振捨てゝ、蟠龍軒と情《じょう》を通じて、友之助を亡《な》き者にせんと企《たく》みたる女でございます、いつぞや私を取って押え、痰《たん》まで吐きかけた恩知らず、私の遺恨とは申しながら、今に残念に思うて居ります」
と、一点の澱《よど》みもなく滔々《とう/\》と申立てました。
十
時に石川土佐守殿、
「其の方の心底《しんてい》はよう相分ったが、左様の義侠心を持ちながら何故其の場を逃退《にげの》きしぞ」
文「恐れな
前へ
次へ
全111ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング