ぬる十二月二十一日、江戸橋に於て罪人友之助引廻しの際、一行を差止め、我こそ罪人なりと名告《なの》り出《い》で候う由なるが、全く其の方は数人の人殺しを致しながら、今日《きょう》まで隠れいるとは卑怯《ひきょう》な奴じゃぞ、併《しか》し上《かみ》に於ては吟味の末、友之助が自身白状致したに依って、仕置を申付けた次第であるぞ、上の裁判に一点の曇りは無いわ、何故《なぜ》今日となって左様な事を申出《もうしい》でたか、徒《いたず》らに上を弄《もてあそ》ぶに於ては其の分《ぶん》には捨置かんぞ」
文「恐れながら文治申上げます、不肖なれども理非の弁《わきま》えはございます、お上様《かみさま》を弄ぶなどとは以《もっ》ての外《ほか》の仰せでございます、かく申す文治、捨置きがたい仔細あって蟠龍軒を殺害《せつがい》いたすの覚悟にて、同人屋敷へ踏込《ふみこ》み候ところ、折悪《おりあ》しく同人を討洩らし、如何《いか》にも心外に存じ候ゆえ、一時其の場を遁《のが》れ、たとい何処《いずく》の果《はて》に潜むとも、汝《おのれ》生かして置くべきや、無念を霽《は》らして後《のち》訴え出でようと思い居ります内、母の大病、めゝしくも一日々々と看病に其の日を送り、命数尽きて母は歿《みまか》りましたゆえ、今日《こんにち》母の葬式を済まし、一七日《ひとなのか》経ちたる上は卑怯未練なる彼《か》の蟠龍軒を捜し出して、只|一打《ひとうち》と思い詰めたる時こそあれ、どういう了簡で濡衣《ぬれぎぬ》を着たかは存じませぬが、江戸橋にて友之助の引廻し捨札を見れば、斯《こ》う/\云々《うんぬん》、よしや目指す敵は討ち得ずとも、我に代って死罪の言渡しを受けたる友之助を助けずば、武士の一分《いちぶん》相立ち申さず、お上へ対し恐多《おそれおお》い事とは存じながら、かく狼藉《ろうぜき》いたし候段、重々恐入り奉《たてまつ》ります、此の上は無実の罪に伏《ふく》したる友之助をお助け下され、文治に重罪を仰付《おおせつ》け下さいますよう願い奉ります」
奉「フウム、然《しか》らば其の方が……」
時に横合《よこあい》より亥太郎「恐れながら申上げます」
役人「控えろ」
亥「えゝ、こりゃア私《わっち》の……」
役「黙れ」
亥「控えろたって残らず私の仕業で」
役「控えろと申すに何を寝言を申す」
亥「だって皆《みん》な己が為《し》たんでえ、お奉行様、
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