蛯フ差添、然《しか》らずと云うならば出して見せえ、小野の娘お町は今は斯《か》く申す文治の妻なり、お町/\、これへ参れ」
と云われて大伴蟠龍軒は顔色《がんしょく》土の如く、ぶる/\震えて居りまする。
四十五
お町は敵討の支度かい/″\しく現われ出で、
町「おのれ蟠龍軒、眼さえも見えぬ父上様を、よくも欺《だま》して引出し、無慚《むざん》にも切殺したなア、さア汝《おのれ》も武士の端くれ、名告《なの》って尋常に勝負せい、さア/\悪党、いかに/\」
時に友之助、
友「やい蟠龍め、この煙草入は覚えが有ろう、この友之助が其方《そち》へ売った煙草入、お茶の水の人殺しの時、亥太郎さんに取られたであろう、さア何《ど》うじゃ、えゝ、この意気地無《いくじな》しめが」
いかに卑怯な蟠龍軒でも、もう斯《こ》うなっては逃げる訳に参りませぬ。
蟠「ウーム、かく申す大伴の道場へ夜中《やちゅう》切込んで、泥坊同様なことをしたのは其の方どもだな、よし、片ッ端から切伏せくれん、さア支度いたせ」
と言いながら四辺《あたり》を見ますると人一ぱい。國藏、森松、亥太郎始め、皆々手に/\獲物を携《たずさ》え、中にも亥太郎は躍起《やっき》となって、
亥「さア人面獣心《にんめんじゅうしん》、逃げるなら逃げて見ろ、五体を微塵《みじん》に打砕《うちくだ》くぞ」
文「大伴氏、最早逃げようとて逃すものでない、積る罪業《ざいごう》の報いと諦めて尋常に勝負せい、お町、其方《そち》少し下《さが》って居れよ」
相手は大勢《おおぜい》、蟠龍軒は隙《すき》あらば逃げたいのは山々でござりますが、四辺《あたり》は一面土手を築《つ》いたる如く立錐《りっすい》の余地もなく、石川土佐守殿は忍び姿で御出馬に相成り、与力は其の近辺を警戒して居ります。尚お右京殿の使者も忍び姿にて人込みの中に紛《まぎ》れ込み、藤原其の他二三の侍も固唾《かたず》を呑んで見張って居りまする。文治は静かに太刀を抜放ち、
文「さア大伴氏、其許《そこもと》は舅の敵の其の上に、よくも此の文治が面部に疵《きず》を負わし、痰唾《たんつば》まで吐き掛けたな、今日こそ晴れて一騎討の勝負、疾《と》く/\打って来い」
蟠龍軒はぶる/\総身《そうみ》に震いを生じ、すらりと大刀抜くより早くお町の方を目がけて一太刀打込みました。
文「何をするッ」
と文治は横合より
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