トんぴ》に消ゆる日向《ひなた》の雪同前、胸も晴々《はれ/″\》したわい、おゝ斯様《こん》な悦ばしい事は……」
 と鬼を欺《あざむ》く文治もそゞろに愛憐《あいれん》の涙に暮れて、お町を抱《かゝ》えたまゝ暫く立竦《たちすく》んで居りまする。お町は漸《ようや》く気も落着いたと見えまして、
 町「旦那様、私《わたくし》は……」
 文「もう宜《い》い、もう宜い、何も云うてくれるな、敵《かたき》の手掛りも薄々知れて居《お》るゆえ、今に満足させるぞよ」
 町「はい、旦那様、あの蟠龍軒めは……」
 文「よし/\、左様に心配してくれるな、おゝ悦ばしい」
 とお町の手を取って小屋の内に一休み、言わず語らず涙にくれている、互いの心の中《うち》は思いやられて不憫《ふびん》でござりまする。

  四十一

 文治夫婦は深山《みやま》の小屋にて、島に一年|蟄居《ちっきょ》の話、穴に一年難儀の話、積る話に実が入《い》りまして、思わず秋の夜長を語り明しました。
 文「もう夜《よ》が明けたの」
 町「おや、もう夜が明けたのですか」
 と云って居りますところへ一人の男がやってまいりまして、
 「やア旦那様」
 文「おゝ、そちは國藏ではないか」
 國「旦那様、漸《ようよ》うのことで尋ね当てました、これは御新造様御無事で」
 町「おや、國藏さんですか」
 國「まア何《ど》うしてお二人が斯様《こん》な処に、夢じゃアありますまいなア、私《わっち》やア嬉しくって耐《たま》らねえ」
 文「まア其方《そち》は何うして斯様な処へ来たのか」
 國藏は涙を払い、
 國「話しゃア長《なげ》えことですが、一昨年の秋中《あきじゅう》、旦那が越後へお出でなすったと聞きやして、後《あと》を慕《した》って参《めえ》りやして、散々|此処《こゝ》らあたりを捜しましたが、さっぱり行方が分りませんので、到頭越後まで漕付《こぎつ》けやした、だん/\尋ねたところが、斯《こ》う/\いう方が何処其処《どこそこ》へ泊ったと云いやすから、其処へ往って聞きますと、二三日|前《ぜん》に沖見物をすると云って船に乗り出したと聞いて、私《わっち》アどの位《くれえ》がっかりしたか知れやせん、まご/\している内に生憎《あいにく》病気に罹《かゝ》りやして、さるお方の厄介になって居ります中《うち》に、江戸の侍が海賊を退治したという噂、幸い病気も癒《なお》りやしたから、も
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