ろの松蔭大藏の下人《げにん》有助と申す者が、此の密書を奪《と》られてはと先頃按摩に姿を窶《やつ》し、当家へ入込《いりこ》み、一夜《あるよ》拙者の寝室《ねま》へ忍び込み、此の密書を盗まんと致しましたところを取押えて棒縛りになし翌朝《よくあさ》取調ぶる所存にて、物置へ打込んで置きましたら、いつか縄脱《なわぬ》けをして逃去りましたから、確《しか》と調べようもござらんが、常磐《ときわ》というのは全く松蔭の匿名《かくしな》で大藏の家来有助が頼まれて尾久在《おうござい》へ持ってまいるとまでは調べました、またそれに千早殿と認《したゝ》めてあるのは、頓と分りませんが、多分神原の事ではござらんかと拙者考えます、お屋敷の内に斯様な悪人があって御舎弟紋之丞様を亡《うしな》い、妾腹《めかけばら》の菊之助様を世に出そうという企《たく》みと知っては棄置《すてお》かれん事、是は拙者の考えで容易に他人《ひと》に話すべき事ではござらんが、御再考下さるよう……拙者は決して逃隠れはいたしませんが、お互に年来御高恩を蒙《こうむ》った主家《しゅか》の大事、証拠にもならんような事なれども、お国家老へ是からまいって相談をして見とう
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