いう和尚さんが説示《ときしめ》したからお竹も五平を恨む念は毛頭ありません。
竹「お前此の金が欲しければ皆《みん》な上げよう」
五「いえ/\金は要《い》りません、私《わたくし》は剃髪《ていはつ》して罪滅しの為に廻国《かいこく》します」
というので剃刀《かみそり》を取寄せて宗達が五平をくり/\坊主にいたしました。早四郎の死骸は届ける所へ届けて野辺の送りをいたし、後《あと》は他人へ譲り、五平は罪滅しのため四国西国へ遍歴に出ることになり、お竹は是より深い事は話しませんが、
「私《わたくし》は粂野美作守の家来渡邊という者の娘で、弟は祖五郎と申して、只今は美作国《みまさかのくに》へまいって居ります、弟にも逢いたいと存じますし、江戸屋敷の様子も聞きたし、弟もお国表へまいって家老に面会いたし、事の仔細が分りますれば江戸屋敷へまいる筈《はず》で、何《ど》の道便りをするとは申して居りましたが、案じられてなりませんから、家来の忠平という者を連れてまいる途《みち》で長く煩いました上、遂に死別《しにわか》れになりまして、心細い身の上で、旅慣れぬ女のこと、どうか御出家様私を助けると思召《おぼしめ》し、江戸までお送り遊ばして下さいますれば、何《ど》の様《よう》にもお礼をいたしましょう、お忙しいお身の上でもございましょうが、お連れ遊ばして下さいまし」
と頼まれて見ると宗達も今更見棄てる事も出来ず、
宗「それは気の毒なことで、それならば私《わし》と一緒に江戸まで行《ゆ》きなさるが宜《よ》い私《わし》は江戸には別に便《たよ》る処もないが、谷中の南泉寺へ寄って已前《いぜん》共に行脚《あんぎゃ》をした玄道《げんどう》という和尚がおるから、それでも尋ねたいと思う、ま兎も角もお前さんを江戸屋敷まで送って上げます」
と云うので漸《ようよ》うの事にて江戸表へまいりましたが、上屋敷へも下屋敷へもまいる事が出来んのは、予《かね》てお屋敷近い処へ立寄る事はならんと仰せ渡されて、お暇《いとま》になった身の上ゆえ、本郷春木町の指物屋岩吉方へまいり、様子を聞くと、岩吉は故人になり、職人が家督《あと》を相続して仕事を受取って居りますことゆえ、迚《とて》も此処《こゝ》の厄介になる事は出来ません。仕方がないので、どうか様子を下屋敷の者に聞きたいと谷中へ参りますと、好《い》い塩梅に佐藤平馬《さとうへいま》という者に会って、様子を聞くと、平馬の申すには、
平「弟御《おとゝご》は此方《こっち》へおいでがないから、此の辺にうろ/\しておいでになるはお宜しくない、全体お屋敷近い処へ入らっしゃるのは、そりゃアお心得違いな事で、ま貴方は信州においでゞ、時節を待ってござったら御帰参の叶《かな》う事もありましょう、御舎弟も春部殿も未だ江戸へはお出《いで》がない、仮令《たとえ》御家老に何《ど》んなお頼みがありましても無駄な話でございます」
と撥付《はねつ》けられ、
竹「左様なら弟は此方《こちら》へまいっては居りませんか」
平「左様、御舎弟は確《たしか》にお国においでだという話は聞きましたが、多分お国へ行って、お国家老へ何かお頼みでもある事でございましょう、併《しか》し大殿様《おおとのさま》は御病気の事であるが、事に寄ったら御家老の福原様《ふくはらさま》が御出府《ごしゅっぷ》になる時も、お暇になった者を連れてお出《いで》になる筈がないから、是は好《よ》い音信《たより》を待ってお国にお出《いで》でございましょう、殿様は御不快で、中々御重症だという事でございまして、私共《わたくしども》は下役ゆえ深い事は分りませんが、此のお屋敷近い処へ立廻るはお宜しくない事で」
という。此の佐藤平馬という奴は、内々《ない/\》神原五郎治四郎治の二人から鼻薬をかわれて下に使われる奴、提灯持《ちょうちんもち》の方の悪い仲間でございますから、斯《か》く訳の分らんように云いましたのは、お竹にお屋敷の様子が聞かしたくないから、真実《まこと》しやかに云ってお屋敷近辺へ置かんように追払《おっぱら》いましたので、お竹はどうも致方《いたしかた》がない、旧来馴染の出入町人の処へまいりましても、長く泊っても居《お》られません、又一緒にまいった宗達も、長くは居《い》られません理由《わけ》があって、或時お竹に向い、
宗「私《わし》は何うしても美濃の南泉寺へ帰らんければならず、それに又私は些《ち》と懇意なものが有って、田舎寺に住職をしている其の者を尋ねたいと思うが、貴方は是から何処《どこ》へ参らるゝ積りじゃ」
竹「何処へも別にまいる処もありませんが、お国へまいれば弟が居ります、成程御家老も弟を連れて、お出《いで》は出来ますまい、御帰参の叶う吉左右《きっそう》を聞くそれまではお国表にいる事でございましょうから、私《わたくし》もどうかお国へ参りとうございま
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