という事があるかえ」
喜「はい、田舎者で何も心得ませんから」
織「何も心得んとて、先方で立腹するところは尤《もっと》もじゃアないか、喰物《くいもの》の中へ泥草履を投入れゝば、誰だって立腹致すのは当然《あたりまえ》のことじゃ、それから何う致した」
喜「へえ、三人ながら意地の悪い奴が揃ってゝ、家来の不調法は主人の不調法だから、余所目《よそめ》に見て二階に居ることはねえ、此処《これ》へまいり、成り代って詫をしたら堪忍してくれると云いまして、お包を取上げましたから、渡すめえと確《しっ》かり押えると、あんた傍に居た奴が私《わし》の頭を叩いて、無理やりに引奪《ひったく》られましたから、大切な物でも入《へえ》って居《お》ろうかと心配して居ります」
織「何も入って居らん空風呂敷《からぶろしき》ではあるが、不調法をして詫をせずに置く訳にもいかん、手前の事から己が出ると、拙者は粂野美作守家来渡邊織江と申す者でござると、斯う姓名を明かさんければならん、己の名前は兎も角も御主人の名を汚《けが》す事になっちゃア誠に済まん訳じゃアないか、手前は長く奉公しても山出しの習慣《しぐせ》が脱《ぬ》けん男だ、誠に困ったもんだの」
喜「へえ、誠に困りました、然《そ》うして私《わし》が頭ア五つくらしました」
織「打《う》たれながら勘定などをする奴が有りますか」
喜「余り口惜《くやしゅ》うございます、中央《まんなか》にいた奴の叩くのが一番痛うござえました」
織「誠に困るの」
竹「お父《とっ》さま、斯う致しましょうか、却《かえ》って先方が食酔《たべよ》って居りますところへ貴方が入らっしゃいますより、私《わたくし》は女のことで取上げもいたすまいから、私が出て見ましょうか」
織「いや、己がいなければ宜《よ》いが、己がいて其の方を出しては宜しくない」
竹[#「竹」は底本では「喜」]「いゝえ、喜六と私《わたくし》と二人で此処《こゝ》へまいりました積りで、誠に不調法を致しましたと一言申したら宜かろうと存じます、のう喜六」
喜「はい、お嬢様が出れば屹度《きっと》勘弁します、皆《みん》な助平そうなものばかりで」
織[#「織」は底本では「竹」]「こら、其様《そん》なことを云うから物の間違になるんだ」
竹「じゃア二人の積りで宜《い》いかえ、私《わたくし》は手前を連れてお寺参りに来た積りで」
喜「どうか何分にも願います」
とお竹
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