藏は歯噛《はがみ》をなして居りましたが、最早|詮方《せんかた》がないと諦め、平伏して、
大「恐れ入ってござる」
數「おゝ、恐れ入ればそれで宜しい、お秋の方も剃髪《ていはつ》させ、国へ押込める積《つもり》だ、さ書け/\」
大「只今書きまする」
と云いながら後《あと》へ退《さが》るから、岩越という柔術家《やわらとり》が万一《もし》逃げにかゝったら引倒して息の根を止めようと思って控えて居ります。後へ退って大藏が硯《すゞり》を引寄せて震《ふる》えながら認《したゝ》めて差出す。
數「爪印を押せ、其処《そこ》へ」
大「はっ」
と爪印を捺《お》して福原數馬の前へ差出し、
大「重々心得違い、是《こ》れにて宜しゅうございますか、御披見《ごひけん》下さい」
數「其の方の手跡《しゅせき》だから宜しい、さ是から庭へ出て敵討《かたきうち》だ/\」
と云うと大藏は耐《こら》えかねて小刀《しょうとう》を引抜くが早いか脇腹へ突込《つきこ》んで引廻しました。
祖「汝《おの》れ切腹致したな」
と祖五郎が飛掛って二打三打斬付け、遂《つい》に仇《あだ》を討遂《うちおお》せて、直《すぐ》にお屋敷へお届けに相成り、とうとう悪人は残らず国表へ押込められて、お上屋敷の御家来十七人切腹致し、渡邊祖五郎、春部梅三郎はお召帰《めしかえ》しに相成り、渡邊祖五郎は二代目織江と成り、菊様の後見と相成って、お下屋敷にまいりました。また秋月は跡家老職《あとかろうしょく》を仰付けられ、こゝに於《おい》て福原數馬は安心して国へ帰る。殿様は御病気全快し、其の後《ご》大殿お逝去《なくなり》になって、紋之丞さまが乗出し、美作守に任ぜられ。又お竹を何くれ親切に世話をした雲水の宗達は、美作の国までお竹を送り届け、それより廻国を致し、遂に京都で大寺《だいじ》の住職となり、鴻の巣の若江は旅籠屋《はたごや》を親族に相続させ、更《あらた》めて渡邊祖五郎が媒妁人《なこうど》で、梅三郎と夫婦になり、お竹も重役へ嫁入りました。大力《だいりき》の遠山權六は忠義無二との取沙汰《とりざた》にて百石の御加増に相成りましたという。お芽出たいお話でございますが、長物語で嘸《さぞ》御退屈。
[#地から1字上げ](拠酒井昇造筆記)
底本:「圓朝全集 巻の九」近代文芸・資料複刻叢書、世界文庫
1964(昭和39)年2月10日発行
底本の親本:「圓朝全集巻
前へ
次へ
全235ページ中234ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング