した、手前に於《おい》ては毛頭覚えはございません、何を証拠に左様なことを仰しゃいますか、承わりとうござる」
數「これ、まだ其様《そん》なことを云うか、手前は五分試《ごぶだめ》しにもせにアならん奴だ、うゝん……よく考えて見よ、先《まず》奥方さま御死去になってから、お秋の方の気儘《きまゝ》気随《きずい》神原兄弟や手前達を引入れ、殿様を蔑《ないがしろ》にいたす事も皆《み》な存じて居《お》る。殊に其の方を世話いたした渡邊を殺害《せつがい》致したり、もと何処《どこ》の者か訳も分らん者を渡邊が格別|取做《とりなし》を申したから、お抱えになったのじゃ、上《かみ》へ諂《へつら》い媚《こび》を献じて、とうとう寺島主水を説伏せ、江戸家老を欺き遂《おわ》せて、菊様を世に出そうが為、御舎弟様を亡《な》き者にしようと云う事は、疾《と》うに忠心の者が一々国表へ知らせたゆえに、老体なれども此の度《たび》態々《わざ/\》出て参ったのだ、其の方のような悪人は年を老《と》っても人指《ひとさしゆび》と拇指《おやゆび》で捻《ひね》り殺すぐらいの事は心得て居《お》る、さアそれとも言訳があるか、忠義に凝《こ》った若者らは不忠不義の大罪人|八裂《やつざき》にしても飽足《あきた》らんと憤《いきどお》ったのを、私《わし》が止めた、いやそれは宜しくない、一人を殺すは何でもない、况《まし》て事を荒立る時には殿様のお眼識違《めがねちが》いになりお恥辱《はじ》である、また死去致した渡邊織江の越度《おちど》にも相成る事、万一此の事が将軍家の上聞《じょうぶん》に達すれば、此の上もない御当家のお恥辱《はじ》になるゆえ、事|穏便《おんびん》が宜しいと理解をいたした、こりゃ最早|何《ど》の様《よう》に陳じても遁《のが》れる道はないから、神原兄弟は国表へ禁錮《おしこめ》申し付け、家老役御免、跡役は秋月喜一郎に仰付けられるよう相定《あいさだま》って居《お》る、手前は不忠な事を致し、面目次第もない、不忠不義の大罪人御奉公も相成り兼《かね》るによって永《なが》の暇《いとま》下されたしという書面を書け、これ祖五郎此の松蔭に父を討たれ、無念の至りであろう、手前はお暇を蒙《こうむ》って居《お》る身の上、仮令《たとえ》悪人でも殿様のお側近くへまいる役柄を勤める大藏を、敵《かたき》と云って無闇に討つことは出来んから、暇を取ったら、直《すぐ》に討て……
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