に、以ての外《ほか》の事を申す奴だ、疾《とく》に証拠あって取調べが届いて居《お》るぞ、最早|遁《のが》れんぞ、兄弟共に今日《こんにち》物頭《ものがしら》へ預け置く、勘八其の方は不埓至極の奴、吟味中|入牢《じゅろう》申付ける、權六」
權「はい私《わし》も牢へ入《へい》りますかえ」
目「いや其の方は四月の二十八日から遠慮になったな」
權「えゝ」
目「二十八日から丁度昨夜が遠慮明けであった」
權「あゝ然《そ》うでございますか」
目「いや丁度左様に相成る、遠慮が明けたから、其の方がお庭内を相変らず御主君のお身の上を案じ、御当家を大切と思い、役目の外に夜廻りをいたす忠義無二のことと、上《かみ》にも御存じある事で、後《ご》してはまた格別の御褒美もあろうから、有難く心得ませい」
權「有難うございます、なにイ呉れます」
目「何を下さるかそれは知れん」
權「なに私《わし》は種々《いろ/\》な物を貰《もろ》うのは否《いや》でございます、どうかまア悪い奴と見たら打殺《ぶっころ》しても構わないくらいの許しを願《ねげ》えてえもので、此の頃は余程悪い奴がぐる/\廻って歩きます、全体此の四郎治なんという奴は打殺して遣《や》りてえのだ」
目「これこれ控えろ、追って吟味に及ぶ、今日《こんにち》は立ちませえ」
と直《すぐ》に神原兄弟は頭預《かしらあず》けになって、宅番《たくばん》の附くような事に相成り、勘八という下男は牢へ入りました。權六は至急お呼出しになって百日の遠慮は免《ゆ》りて、其の上お役が一つ進んで御加増となる。遠山權六は君恩の辱《かたじけ》ないことを寝ても覚めても忘れやらず、それから毎夜ぐる/\廻るの廻らないのと申すのではありません。徹夜《よどおし》寝ずに廻るというは、実に忠義なことでございます。此の事を聞いて松蔭大藏が不審を懐《いだ》き、どうも神原兄弟が頭預けになって、宅番が附いたは何ういう調べになった事かはて困ったものだ、彼奴《あいつ》らに聞きたくも聞くことも出来ん自分の身の上、あゝ案じられる、国家老の出たは容易ならん事、どうか国家老を抱込みたいものだと、素《もと》より悪才に長《た》けた松蔭大藏|種々《いろ/\》考えまして、濱名左傳次《はまなさでんじ》にも相談をいたし、国家老を引出しましたのは市ヶ谷|原町《はらまち》のお出入町人|秋田屋清左衞門《あきたやせいざえもん》という者の別荘が橋
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