んがき》では大層に安い物だの」
縫「へい、お安うございます、貴方お裏は新しいものでございます」
村「何ういう訳で此《こ》れを払うというのだえ」
縫「先方《むこう》はよく/\困っているのでございます」
村「丈《たけ》や身巾《みはゞ》が違うと困るね」
縫「左様ならお置き遊ばしては何うでございます、一日ぐらいお置きあそばしても宜しゅうございます」
村「余《あんま》り縞柄が好《よ》いから、欲しいような心持もするから、置いてっておくれ」
縫「左様でございますか、じゃア私《わたくし》が今日の暮方までに参りませんければ、明朝伺いに上ります」
村「では後《あと》で好《よ》く※[#「てへん+僉」、第3水準1−84−94]《あらた》めて見よう」
 是をお世話いたせば幾許《いくら》か儲かるのだから先ず気に入ったようだとお縫は悦んで帰ってしまう、後《あと》でお定を呼んで、
村「手伝っておくれ、解《ほど》いて見よう、綿は何様《どん》なか」
 と段々解いて見ると。不思議なるかな襟筋《えりすじ》に縫込んでありました一封の手紙が出ました。
村「おや、定や」
定「はい」
村「此様《こん》な手紙が出たよ」
定「おや/\襟ん中から奇態でございますね、何うして」
村「私にも分らんが、何ういう訳で襟の中へ……訝《おか》しいの」
定「女物の襟へ手紙を入れて置くのは訝しい訳でございますが、情夫《いろおとこ》の処へでも遣るのでございましょう」
村「だってお前それにしても襟の中へ……訝しいじゃアないか」
定「左様でございますね、開けて御覧遊ばせよ、何と書いてあるか」
村「無闇に封を切っては悪かろう」
定「これを貴方の物にして、此の手紙を開けて御覧なすって、若《も》し入用《にゅうよう》の手紙なれば先方《むこう》へ返したって宜《い》いじゃア有りませんか」
村「本当に然《そ》うだね、封が固くしてあるよ、何と書いてあるだろう」
定「お禁厭《まじない》でございますか知らん、随分お守《まもり》を襟へ縫込んで置く事がありますから、疫病除《やくびょうよけ》に」
村「父上様まいる菊よりと書いてある、親の処へやったんで」
定「だって貴方親の処へ手紙をやるのに、封じを固くして襟の中へ縫付けて置くのは訝《おか》しゅうございますね、尤《もっと》も芸者などは自分の情郎《いろおとこ》や何かを親の積りにして、世間へ知れないようにお父様《とっさま》
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