目がポカリと毀れて居たから恟《びっく》り致しました。
千「おや……お皿が毀れて居ります」
長「それ見ろ、お父様《とっさま》御覧遊ばせ、此の通り未《ま》だ粘りが有ります此の糊で附着《くっつ》けて瞞《ごま》かそうとは太い奴では有りませんか」
千「いえ、先程大殿様がお検めになりました時には、決して毀れては居りません」
長「何う仕たって此の通り毀れて居るじゃアないか」
千「先刻《さっき》は何とも無くって、今毀れて居るのは何う云う訳でしょう」
作「成程斯う云う事があるから油断は出来ない、これ千代|毀《わ》りようも有ろうのに、ちょっと欠いたとか、罅《ひゞ》が入った位ならば、是れ迄の精勤の廉《かど》を以《もっ》て免《ゆる》すまいものでもないが、斯う大きく毀れては何うも免し難い、これ、何は居らんか、何や、何やでは分らん、おゝそれ/\辨藏《べんぞう》、手前はな、千代の受人の丹治という者の処へ直《すぐ》に行ってくれ、余り世間へぱっと知れん内に行ってくれ、千代が皿を毀したから証文通りに行うから、念のために届けると云って、早く行って来い」
辨「へえ」
と辨藏は飛んで行って、此のことを気の毒そうに話をすると、丹治は驚きまして、母の処へ駈込んでまいり。
丹「御新造《ごしんぞ》さまア……」
母「おや丹治か、先刻《さっき》は誠に御苦労、お蔭で余程《よっぽど》宜《よ》いよ」
丹「はっ/\、誠にはや何ともどうも飛んだ訳になりました」
母「ドヽ何うしたの」
丹「へえ、お嬢様が皿ア割ったそうで」
母「え……丹治皿を彼《あれ》が……」
丹「へえ、只今|彼家《あちら》の奉公人が参りまして、お千代どんが皿ア割っただ、汝《われ》受人だアから何《なん》ぼ証文通りでも断りなしにゃア扱えねえから、ちょっくら届けるから、立合うが宜《え》いと云って来ました、私《わし》が考えますに、先方《むこう》はあゝ云う奴だから、詫びたっても肯《き》くまいと思って、私が急いでお知らせ申しに来やしたが、お嬢さまが彼家《あそこ》へ住込む時、虫が知らせましたよ、門の所まで私送り出して来たアから、貴方《あんた》皿ア割っちゃアいけないよと云ったら、お嬢様が余程《よっぽど》薄いもんだそうだし、原土《もとつち》で拵えたもんだから割れないとは云えないから、それを云ってくれちゃア困るよと仰しゃいましたが、何とまア情《なさけ》ねえ事になりましたな、どうか詫
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