「巾+廚」、第4水準2−12−1]《かや》の吊手《つりて》を切落し、寝ている上へフワリと乗ったようだから、
早「何だこれははてな」
と考えて居りますと、片方《かたっぽ》では片手で探《さぐ》り、此処《こゝ》ら辺《あたり》が喉笛《のどぶえ》と思う処を探り当てゝ、懐から取出したぎらつく刄物を、逆手《さかて》に取って、ウヽーンと上から力に任せて頸窩骨《ぼんのくぼ》へ突込《つッこ》んだ。
早「あゝ」
と悲鳴を上げるのを、ウヽーンと※[#「宛+りっとう」、第4水準2−3−26]《えぐ》りました。苦しいから足をばた/\やる拍子に襖《ふすま》が外れたので、和尚が眼を覚して、
僧「はゝ、夜這《よばい》が来たな」
と思いましたから起きて来て見ると、灯火《あかり》が消えている。
僧「困ったな」
と慌《あわ》てゝ手探りに枕元にある小さな鋼鉄《くろがね》の如意《にょい》を取って透《すか》して見ると、判然《はっきり》は分りませんが、頬被《ほうかぶ》りをした奴が上へ乗《の》しかゝっている様子。
僧「泥坊」
と声をかける大喝一声《だいかついっせい》、ピイーンと曲者の肝《きも》へ響きます。
曲者「あっ」
と云って逃げにかゝる所へ如意で打ってかゝったから堪《たま》らんと存じまして、刄物で切ってかゝるのを、胆《たん》の据《すわ》った坊さんだから少しも驚かず、刄物の光が眼の先へ見えたから引外《ひっぱず》し、如意で刄物を打落し、猿臂《えんぴ》を延《のば》して逆に押《おさ》え付け、片膝を曲者の脊中へ乗掛《のっか》け、
僧「やい太い奴だ、これ苟《かりそ》めにも旅籠《はたご》を取れば客だぞ、其の客へ対して恋慕を仕掛けるのみならず、刄物などを以て脅して情慾を遂《と》げんとは不埓至極の奴だ、これ宿屋の亭主は居らんか、灯火《あかり》を早く……」
という処へ帰って来ましたのはお竹で。
竹「おや何で」
僧「む、お怪我はないか」
竹「はい、私《わたくし》は怪我はございませんが、何でございます」
僧「恋慕を仕掛けた宿屋の忰が、刄物を持って来て貴方に迫り、わっという声に驚いて眼をさまして来ました、早く灯火《あかり》を……廊下へ出れば手水場《ちょうずば》に灯火がある」
という中《うち》に雇婆《やといばあ》さんが火を点《とぼ》して来ましたから、見ると大の男が乗掛《のッかゝ》って床《とこ》が血みどりになって居ります。
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