うか》願います」
と少し憤《いきどお》った気味で受合いましたから、大きにお竹も力に思って、床を展《と》って臥《ふせ》りました、和尚さまは枕に就《つ》くと其の儘旅疲れと見え、ぐう/\と高鼾《たかいびき》で正体なく寝てしまいました。お竹は鼾の音が耳に附いて、どうも眠《ね》られません、夜半《よなか》に密《そっ》と起きて便所《ようば》へまいり、三尺の開《ひら》きを開けて手を洗いながら庭を見ると、生垣《いけがき》になっている外は片方《かた/\》は畠で片方は一杯の草原《くさはら》で、村の人が通るほんの百姓道でございます。秋のことだから尾花《おばな》萩《はぎ》女郎花《おみなえし》のような草花が咲き、露が一杯に下りて居ります。秋の景色は誠に淋しいもので、裏手は碓氷の根方《ねがた》でございますから小山《こやま》続きになって居ります。所々《ところ/\》ちら/\と農家の灯火《あかり》が見えます、追々戸を締めて眠《ね》た処もある様子。お竹が心の中《うち》で。向うに幽《かす》かに見えるあの森は洪願寺様であるが、彼処《あすこ》へ葬り放しで此処《こゝ》を立つのは不本意とは存じながら、長く泊っていれば、宿屋の忰が来て無理無体に恋慕を云い掛けられるのも忌《いや》な事であると、庭の処から洪願寺の森を見ますと、生垣の外にぬうと立っている人があります。男か女か分りませんが、頻《しき》りと手を出してお出《いで》/\をしてお竹を招く様子、腰を屈《かゞ》めて辞儀をいたし、また立上って手招ぎをいたします。
竹「はてな、私を手招ぎをして呼ぶ人はない訳だが……男の様子だな、事によったら敵《かたき》の手係りが知れて、人に知れんように弟《おとゝ》が忍んで私に会いに来たことか、それとも屋敷から内々《ない/\》音信《たより》でもあった事か」
と思わず褄《つま》を取りまして、其処《そこ》に有合せた庭草履を穿《は》いて彼《か》の生垣の処へ出て見ると、十間ばかり先の草原《くさばら》に立って居りまして、頻りと招く様子ゆえお竹は、はてな……と怪しみながら又跡を慕ってまいりますと、又男が後《あと》へ退《さが》って手招きをするので、思わず知らずお竹は畠続きに洪願寺の墓場まで参りますと、新墓《しんばか》には光岸浄達信士という卒塔婆《そとば》が立って樒《しきみ》が上《あが》って、茶碗に手向《たむけ》の水がありますから、あゝ私ゃア何うして此
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