ぬ御懇命《ごこんめい》を受けました、志摩などは誠にあゝいうお方様がと存じましたくらいで、へえどうか又何ぞ御用に立つ事がありましたら御遠慮なく……此処《こゝ》は役所の事ですから、小屋へ帰りまして仰せ聞けられますように」
祖「千万有難う」
 と仕方なく/\祖五郎は我《わが》小屋へ立帰って、急に諸道具を売払い、奉公人に暇《いとま》を出して、弥々《いよ/\》此処《こゝ》を立退《たちの》かんければなりません。何処《どこ》と云って便《たよ》って往《ゆ》く目途《あて》もございませんが、彼《か》の若江から春部の処へ送った文が残っていて、春部は家出をした廉《かど》はあるが、春部が父を殺す道理はない、はて分らん事で……確か梅三郎の乳母と云う者は信州の善光寺にいるという事を聞いたが、梅三郎に逢ったら少しは手掛りになる事もあろうと考えまして、前々《ぜん/\》勤めていた喜六という山出し男は、信州上田の在で、中《なか》の条村《じょうむら》にいるというから、それを訪ねてまいろうと心を決しまして、忠平という名の如く忠実な若党を呼びまして、
祖「忠平手前は些《ちっ》とも寝ないのう、ちょいと寝なよ」
忠「いえ眠くも何ともございません」
祖「姉様《あねさま》と昨夜《ゆうべ》のう種々《いろ/\》お話をしたが、屋敷に長くいる訳にもいかんから、此の通り諸道具を引払ってしまった、併《しか》し又再び帰る時節もあろうからと思い、大切な品は極《ごく》別懇にいたす出入町人の家へ預けて置いたが、姉様と倶《とも》に喜六を便《たよ》って信州へ立越《たちこえ》る積りだ、手前も長く奉公してくれたが、親父も彼《あ》の通り追々|老《と》る年だし、菊はあゝ云う訳になったし、手前だけは別の事だから、こりゃア何の足しにもなるまいが、お父《とっ》さまの御不断召《ごふだんめし》だ、聊《いさゝ》か心ばかりの品、受けて下さい、是まで段々手前にも宜く勤めて貰い、お父さまが亡《な》い後《のち》も種々骨を折ってくれ、私《わし》は年が往《ゆ》かんのに、姉様は何事もお心得がないから何うして宜《い》いかと誠に心配していたが、万事手前が取仕切ってしてくれ、誠に辱《かたじけ》ない、此品《これ》はほんの志ばかりだ……また時が来て屋敷へ帰ることもあったら、相変らず屋敷へ来て貰いたい、此品《これ》だけを納めて下さい」
忠「へえ誠に有難う……」
竹「手前どうぞ岩吉にも会
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