の宝物《ほうもつ》になって居ります。これは彼《か》の諸方で経済学の講釈をしたり、平天平地《へいてんへいち》とかいう機械をもって天文学を説いて廻りました佐田介石《さだかいせき》和尚が確かに見たと私《わたくし》へ話されました。何《ど》の様な皿かと尋ねましたら、非常に良い皿で、色は紫がゝった処もあり、また赤いような生臙脂《しょうえんじ》がゝった処があり、それに青貝のようにピカ/\した処もあると云いますから、交趾焼《こうちやき》のような物かと聞きましたら、いや左様《そう》でもない、珍らしい皿で、成程一枚|毀《こわ》したら其の人を殺すであろうと思うほどの皿であると云いました。其の外《ほか》にある二十枚の皿を白菊と云って、極《ごく》薄手の物であると申すことですが、東山時分に其様《そん》な薄作《うすさく》の唐物はない筈、決して薄作ではあるまいと仰しゃる方もございましょうが、ちょいと触っても毀れるような薄い皿で、欠けたり割れたりして、継いだのが有るということです。此の皿には菊の模様が出ているので白菊と名づけ、あとの十枚は野菊のような色気がある処から野菊と云いました由で、此の皿は東山家伝来の重宝《ちょうほう》であるゆえ大事にするためでも有りましょう、先祖が此の皿を一枚毀す者は実子たりとも指一本を切るという遺言状をこの皿に添えて置きましたと申すことで、ちと馬鹿々々しい訳ですが、昔は其様なことが随分沢山有りましたそうでございます。其の皿は実に結構な品でありますゆえ、誰《たれ》も見たがりますから、作左衞門は自慢で、件《くだん》の皿を出しワすのは、何《ど》ういうものか家例《かれい》で九月の節句に十八人の客を招待《しょうだい》して、これを出します。尤《もっと》も豪家ですから善《よ》い道具も沢山所持して居ります。殊に茶器には余程の名器を持って居りますから自慢で人に見せます。又御領主の重役方などを呼びましては度々《たび/\》饗応を致します。左様な理由《わけ》ゆえ道具係という奉公人がありますが、此の奉公人が頓《とん》と居附きません。何故《なぜ》というと、毀せば指一本を切ると云うのですから、皆道具係というと怖れて御免を蒙《こうむ》ります。そこで道具係の奉公人には給金を過分に出します。其の頃三年で拾両と云っては大した給金でありますが、それでも道具係の奉公人になる者がありません。中には苦しまぎれに、なんの
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