/\来たから、実に魂消たね、飛上ったね、いまだにどう/\胸が鳴ってるだ……見れば大小を差しているようだ、お侍さんだな、どうか一緒に連れて歩いてくだせえ、私も鴻の巣まで参《めえ》るもので」
梅「それは幸いな事で、然《しか》らば御同伴《ごどうはん》を願いたい」
男「えゝ…こゝで飯《まんま》ア喰う訳にはまいりやせん、お飯を喰えって」
梅「いえ、御同道《ごどうどう》をしたいので」
男「アハヽヽヽ一緒に行《い》くという事か、じゃア、御一緒にめえりますべえ……草臥れて歩けねえというのは此の姉《ねえ》さんかね、それは困ったんべえ、江戸者ちゅう者は歩きつけねえから旅へ出ると意気地《いくじ》はねえ、私《わし》も宿屋にいますが、時々客人が肉刺《まめ》エ踏出して、吹売《ふきがら》に糊付板《のりつけいた》を持って来《こ》うてえから、毎《いつ》でも糊板を持って行くだが、足の皮がやっこいだからね、お待ちなせえ、私ア独り歩くと怖えから、提灯を点《つ》けねえで此の通り吊《ぶら》さげているだ。同伴《つれ》が殖えたから点けやすべえ」
梅「お提灯は拙者が持ちましょう」
男「私《わし》ア此処《こゝ》に懐中附木《かいちゅうつけぎ》を持ってる、江戸見物に行った時に山下で買ったゞが、赤い長太郎玉《ちょうたろうだま》が彼《あれ》と一緒に買っただが、附木だって紙っ切《きれ》だよ、火絮《ほくち》があるから造作もねえ、松の蔭へ入《はい》らねえじゃア風がえら来るから」
と幾度もかち/\やったが付きません。
男「これは中々点かねえもんだね、燧《いし》が丸くなってしまって、それに火絮が湿ってるだから……漸《やっと》の事で点いただ、これでこの紙の附木に付けるだ、それ能く点くべい、えら硫黄臭いが、硫黄で拵《こしれ》えた紙だと見える、南風でも北風でも消えねえって自慢して売るだ、点けてしまったあとは、手で押《おせ》えて置けば何日《いつ》でも御重宝《ごちょうほう》だって」
梅「じゃア拙者が持ちましょう、誠にお提灯は幸いの事で、さ我慢して、五町ばかりだと云うから」
若「はい、有難う存じます」
男「お草臥れかね、えへゝゝゝゝ顔を其方《そっち》へ向けねえでも宜《よ》い」
若江は頭巾を被って居りますから田舎者の方では分りませんが、若江の方で見ると、旧来|我家《わがや》に勤めている清藏《せいぞう》という者ゆえ、嬉しさの余り草臥れも忘れて前へ
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