命にさわるわけではなし、お母さまの御病気が癒った方が宜《よ》いわけじゃアないか」
丹「うん、これは然《そ》うだ、然う仰しゃると無理じゃアない、棄置けば死ぬと云うものを、あなたが何う考えても打棄《うっちゃ》って置かれねえが、成程是れは奉公するも宜うごぜえましょう」
母「お前馬鹿な事ばかり云っている、私が此の娘《こ》を其様な処へ遣られるか遣られないか考えて見なよ、指を切られたら肝心な内職が出来ないじゃアないか、此の困る中で猶々《なお/\》困ります、遣られませんよ」
丹「成程是れはやれませんな、何う考えても」
千「あらまア、あんな事を云って、何方《どっち》へも同じような挨拶をしては困るよ」
丹「へえ、是れは何方とも云えない、困ったねえ…じゃア斯うしましょう、私《わし》がの媼《ばゞあ》を何卒《どうか》お頼ん申します、私がお嬢さまの代りに奉公に参《めえ》りまして、私が其の給金を取りますから、お薬を買って下せえまし」
千「女でなければいけない、男は暴々《あら/\》しくて度々《たび/\》毀すから女に限るという事は知れて居るじゃアないか」
丹「然《そ》うだね、男じゃア毀すかも知れねえ、私等《わしら》は何うも荒っぽくって、丼鉢を打毀《うちこわ》したり、厚ぼってえ摺鉢《すりばち》を落して破《わ》った事もあるから、困ったものだアね」
千「お母さん、何卒《どうぞ》やって下さいまし」
と幾度《いくたび》も繰返しての頼み、段々母を説附《ときつ》けまして丹治も道理《もっとも》に思ったから、
丹「そんならばお遣んなすった方が宜かろう」
と云われて、一旦母も拒みましたが、娘は肯《き》かず、殊《こと》に丹治も倶々《とも/″\》勧めますので、仕方がないと往生をしました。幸い他《た》に手蔓《てづる》が有ったから、縁を求めて彼《か》の東山作左衞門方へ奉公の約束をいたし、下男の丹治が受人《うけにん》になりまして、お千代は先方へ三ヶ年三十両の給金で住込む事になりましたのは五月の事で、母は心配でございますが、致し方がないので、泣く/\別れて、さて奉公に参って見ると、器量は佳《よ》し、起居動作《たちいふるまい》物の云いよう、一点も非の打ち処《どこ》がないから、至極作左衞門の気に入られました。
三
作左衞門はお千代の様子を見まして、是れならば手篤《てあつ》く道具を取扱ってくれるだろう、誠に落
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