事は出来ません」
 亭「折角《せっかく》だから戴いて行《ゆ》きな、これは業平橋にお住居《すまい》なさる文治様と云う旦那だよ」
 娘「有り難うございますが、親父が物堅うございますから、仮令《たとえ》手拭一筋でも人様から謂《いわ》れなく物を戴いて参ると直《すぐ》に持って往って返えせと申しますくらいでございますから、金子などを持って往《ゆ》けば立腹致して私《わたくし》を手打にすると申すかも知れません、戴きたい事は山々でございますが、私《わたくし》が持って帰っては迚《とて》も受けませんから、お慈悲|序《つい》でに恐れ入りますが、貴方が持って往って直《じか》に親父にお渡し下されば親子の者が助かります、眼さえ治れば直《すぐ》にお返し申しますから何卒《どうぞ》そう為すって下さいまし」
 文「はい/\これはお前さんに遣るのは悪るかった」
 森「これは真物《ほんもの》ですなア、贋物なら直《すぐ》に持って往《ゆ》くのだが、こりゃア真物だ」
 文「姉さんお前は何処《どこ》だえ」
 娘「はい、松倉町二丁目でございます」
 文「それは聞いたがお前の家《うち》は松倉町の何《ど》の辺だえ」
 娘「はい、葛西屋《かさ
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