善人になってくれるか」
國「そりゃア屹度善人になりやす」
文「大悪《だいあく》のものが改心すれば反《かえ》って善人になると云うから屹度善人になってくれ、併《しか》し手前《てまえ》が善人になると云っても借金があって法が付くまい、爰《こゝ》に廿両あるからこれで借金の目鼻を付けた上で、稼いでも足りぬ時は手前を打《ぶ》った印に生涯《しょうがい》でも恵んでやるから、これを持って往って稼げ」
國「旦那それじゃア此の金を私《わっち》にくれますかえ、豪《えら》いなア、どうも驚いた、私《わっち》を悪《にく》んで打《ぶ》ったのだから、大抵の者ならくれた処が五両か七両、それを廿両|遣《や》るから善人になれと云うお前《めえ》さんの気象に惚れた、これから屹度改心して仕事を致します」
文「能く云ってくれた、就《つ》いては手前に能く申し聞けて置く事があるが、悪人と云うものは、善人になると口で云って、其の金を持って往って、博奕場《ばくちば》へでも引掛《ひっかゝ》り、遣果《つかいはた》して元の國藏のように悪事をすれば文治は許さぬぞ、うっかり持って往《ゆ》くな、香奠《こうでん》にやるのだ、手前の命の手付にやるのだ
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