ないものが、此の野郎斬りやアがったな、と又上って来ました。亥太郎が二度目に上った時は、蟠龍軒は風を喰《くら》って逃げた跡で、手に遺《のこ》ったのは胴乱。
 亥「盗人《ぬすっと》が提《さ》げていた恰好《かっこう》の悪い煙草入、これは打《たゝ》き売って酒でも食《くら》え」
 と腹掛《はらがけ》へ突込《つっこ》んで帰りましたが、悪い事は出来ないもので、これが紀伊國屋へ誂《あつら》えた胴乱でございます、それが為に後《のち》に蟠龍軒が庄左衞門を殺害《せつがい》したことが知れます。これは後《のち》のことで。さて庄左衞門の娘町は、何時《いつ》まで待っても親父《おやじ》が帰って来ません、これは大方お医者様に留められて療治をしているのではないかと心配して居ります。夜が明けると斯様《かよう》な者が殺害《せつがい》されている、心当りの者は引取りに来いという貼札《はりふだ》が出る。家主《いえぬし》も驚きまして引取りに参り、御検視お立会《たちあい》になると、これは手の勝《すぐ》れて居《お》る者が斬ったのであるゆえ、物取りではあるまい意趣斬りだろうという。なれども貞宗の刀が紛失《ふんじつ》している。八方へ手を廻し
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