文「へー……」
文治郎は癇癖に障った処へ聞取《きゝとり》を違いまするのは、成程自分の身体は母の身体である、あゝ母の身体へ傷を付けた大伴兄弟を捨置いて其の儘帰ったのは自分の過《あやま[#「ま」は、底本では欠如]》りである、よし/\今晩大伴蟠龍軒の道場へ斬込んで、皆殺しにしてやろうと云う念が起りました。これは聞き様の悪いので、母親は其の心持ではない、文治郎を戒める為にうっかり云いましたことを、此方《こちら》は怒《おこ》っているから聞違えたのでございます。母は立腹致しまして、
母「次の間へいって慎《つゝし》んで居れ」
文「へー」
と文治郎は次の間へ来て慎んで居りましたが、腹の中《うち》では今晩大伴の道場へ踏込んで兄弟を殺し、あゝ云う悪人の臓腑はどういうものか臓腑を引摺り出してやろうと考えて居《お》る。母は文治郎が人を斬って来た様子もないが、今夜抜け出されては困ると思って、
母「文治、少し気分が悪いから枕もとにいて下さい」
文「へー、お脊中でも擦《さす》りましょうか」
母「はい、来て脊中を擦って下さい、そうして読掛けた本を枕もとで読んで下さい」
仕方がないから本を読んで居りま
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