お掃除の時、ひょっとして引出へでもお取仕舞《とりしまい》になって居《お》ろうかと心得申すので、どうか彼《あ》の様に弱い奴でございますから、不憫《ふびん》と思召して百両返して下さらぬでは友之助は立行《たちゆ》きませんから」
 蟠「黙れ、苟《かりそ》めにも一刀流の表札を掛けたる大伴蟠龍軒、町人|風情《ふぜい》の金を欺いて取ったと云うは無礼な奴、不埓至極」
 と側にあった一合入りの盃《さかずき》を執《と》りました。前には能くお屋敷で陶器《やきもの》の薄出《うすで》の盃が出ました。上が娘の姿、中は芸妓の姿、一番仕舞が娼妓《しょうぎ》の姿などが画《か》いてあり、周囲《まわり》は桜の花などが細かに描《か》いてあります。其の一番下の一合入の盃をとってポーンと投付けると文治郎も身をかわして除《よ》けたが、投げる者も大伴蟠龍軒、狙《ねら》い違《たが》わず文治郎の月代際《さかやきぎわ》へ当ると、今とは違い毛がないから額《ひたえ》の処へ斯《こ》う三日月《みかづき》なりに瀬戸物の打疵《うちきず》が出来ました。するとポタ/\と血が流れ、水色染の帷子へぽたり/\と血が流れるを見て文治郎はっと額《ひたえ》を押え、掌
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