に云うと、文治郎も心配しても外《ほか》に仕方がないから、お母様《っかさま》には上州前橋の松屋新兵衞が来て逢いたいから吾妻橋の海老屋で待っているとお母様に言ってくれと、こしらえ事ではありますが、人の為と思い、母に話しますると、外の者では遣《や》らぬが、松屋さんなら逢ってくるが宜《よ》いと云うので、森松と同道で都鳥と云う茶店へ来て、
 森「爺さんいるかえ」
 爺「居《お》ります、時々縁台から下りまして川を覗《のぞ》いて居ります」
 森「心配《しんぺい》はねえ、旦那が来たから」
 爺「御苦労様、お医者様ですか」
 森「お医者様じゃねえ……旦那|此方《こっち》へ」
 文「友さん、大分《だいぶ》面部へ疵《きず》を受けたねえ、どうした、確《しっ》かりしなくてはいかぬ、身を投げて死ぬなどとそんな小さい根性を出してはいかぬ、どう云う訳か、心を落付けて話しなさい」
 森[#「森」は底本では「友」と誤記]「旦那が来たよ、話しねえ」
 友「へゝ有難う、誰が来ても私は半分死んで居ります」
 森「あんなことを先刻《さっき》から云うので分りません、確《しっか》りしねえ、旦那だよ」
 文「私《わし》だが分るかえ」

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