いつ》もの口前《くちまえ》で、それは斯《こ》う云う訳で彼《あ》れは斯う云う訳で文治郎が聞違えたのだ、私はお母《っか》さまに孝行を尽していると旨く云いくるめると、あなたは毎もの如くあゝ左様かと又欺されて殺すことは出来ない、そうすると御老母は餓死致され、仮令《たとえ》手を下さなくも貴方が御老母を殺したと同じことになるから、右京様のお屋敷に聞えても能くない、浪人者の文治郎が身を捨てゝも藤原|母子《おやこ》を助けたいと思って斯様《かよう》に致しました、元より人を殺せば命のないのは承知して居ります、就《つい》ては老体の母を遺《のこ》して死にますから何卒《どうぞ》不愍《ふびん》と思召して目を掛けて下さい、おあさどのゝ悪い事は未だそればかりではない、私に附け文《ぶみ》をした事は貴方は知りますまい、いやさ艶書《えんしょ》を送った事は知りますまいがな」
 喜「何《なん》と仰しゃる」
 文「森松、此の間の文《ふみ》を持って来い」
 森「はい、お前さんの所の御新造を悪く云うのじゃアねえが、私《わっち》に手拭や何かくれて此の間立花屋へ連れて行って、お前さんと別れて寡婦《やもめ》暮しになったら文治郎さんを連れて
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