たことはない、どうも強いねえ」
亥「私《わっち》も旦那のような強い人に出会ったことはねえ、初めてだ」
文「見張所の鉄砲を持ち出したのはえらい」
亥「どうも面目もございません、旦那は喧嘩の相手を憎いとも思わず、私《わっち》の爺《ちゃん》の所へ金を十両持って来てくれたそうで、随分牢へは差入物をよこす人もあるが、爺の所へ見舞《みめえ》に来て下すったはお前《めえ》さんばかりで、私《わっち》のような乱暴な人間でも恩を忘れたことはねえから、旦那え、これから出入《でいり》の左官と思って末長く目をかけておくんなせえ、お前《めえ》さんに金を貰ったから有難いのじゃアねえ、お前《めえ》さんの志に感じたからどうか末長く願います」
と云うので、文治郎が盃を取って亥太郎に献《さ》して、主《しゅう》家来同様の固めの盃を致しましたが、人は助けておきたいもので、後に此の亥太郎が文治の見替りに立ってお奉行と論をすると云うお話でありますが、次回《つぎ》にたっぷり演《の》べましょう。
八
業平文治が安永の頃|小笠原島《おがさわらじま》へ漂流致します其の訳は、文治が人殺しの科《とが》で斬罪《ざんざい》になりま
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