おおい》に悦んで、帰り掛けに柳橋の同朋町《どうぼうちょう》に居るお村の母親お崎|婆《ばゞあ》の所へ参りました。
文「森松、己《おれ》は斯《こ》う云う所へ来たことはないから手前が先へ往《ゆ》け、此処《こゝ》じゃアないか」
森「此処です……御免ない、お村さんの宅《うち》は此方《こっち》かえ」
文「なんだ愚図々々分らんことを云って、丁寧に云えよ」
森「丁寧に云い付けねえから出来ねえ……お村さんの処は此方《こちら》かね」
さき「はい、誰だえ、お入りよ、栄《えい》どんかえ」
森「箱屋と間違えていやアがらア」
と云いながら、栂《つが》の面取格子《めんとりごうし》を開けると、一|間《けん》の叩きに小さい靴脱《くつぬぎ》がありまして、二枚の障子が立っているから、それを開けて文治が入りました。其の姿《なり》は藍微塵《あいみじん》の糸織の着物に黒の羽織、絽色鞘《ろいろざや》に茶柄《ちゃつか》の長脇差を差して、年廿四歳、眼元のクッキリした、眉毛《まゆげ》の濃い、人品|骨柄《こつがら》賤《いや》しからざる人物がズーッと入りましたから、婆《ばゞあ》はお客様でも来たのかと思って驚き、
婆「さア此方
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