はありやなしやと思うがまゝ我儕《おのれ》が日ごろおぼえたるかの八橋《やつはし》の蜘手《くもで》なす速記法ちょう業《わざ》をもて圓朝ぬしが口ずから最《い》と滑らかに話しいだせる言の葉をかき集めつゝ幾巻《いくまき》の書《ふみ》にものしてつぎ/\に発兌《うりだ》すこととはなしぬ
明治十八年十一月 若林※[#「※」は「おうへん+甘」、序−6−9]藏識
一
此の度《たび》お聞きに入れまするは、業平文治漂流奇談と名題《なだい》を置きました古いお馴染《なじみ》のお話でございますが、何卒《なにとぞ》相変らず御贔屓《ごひいき》を願い上げます。頃は安永年中の事で、本所《ほんじょ》業平村《なりひらむら》に浪島文治郎《なみしまぶんじろう》と云う侠客《きょうかく》がありました。此の人は以前|下谷《したや》御成街道《おなりかいどう》の堀丹波守《ほりたんばのかみ》様の御家来で、三百八十石頂戴した浪島文吾《なみしまぶんご》と云う人の子で、仔細あって親|諸共《もろとも》に浪人して本所業平村に田地《でんじ》を買い、何不足なく有福に暮して居《お》りましたが、父文吾相果てました後《のち》、六十に近い母に孝行を
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