情婦《いろ》も出来ようし、良《い》いお内儀《かみ》さんも持ちましょうけれども、私はどんな事をしたって思いを残す訳じゃアないが、余所《よそ》は仕方がないが、どうか柳橋では浮気をしておくれでない、若し柳橋で浮気をなさると、友さん私は死んでも浮ばれませんよ」
 友「詰らない事を云うぜ、お前ほんとうに死なゝけりゃア行立《ゆきた》たないかえ」
 村「あゝ私ゃ本当に死のうと思い詰めたから云いますが、こんな事が嘘に云われますか」
 友「そうか、そんなら話すが実は己《おれ》も死のうと思っている、という訳は、旦那の金を二百六十両を遣《つか》い込んで、払い月だがまだ下《さが》りませぬ/\と云って、今まで主人を云い瞞《くろ》めたが、もう十二月の末で、大晦日《おおみそか》迄には是非とも二百六十両の金を並べなければ済まねえから、種々《いろ/\》考えたが、此の晦日前では好《い》い工夫もつかず、主人に対して面目ないし、自分の楽《たのし》みをして主人の金を遣い果たして、高恩を無にするような事をして実に済まねえ、どうも仕方がないから死のうと覚悟はしても、死にきれねえと云うのは、お前《めえ》を残して行《ゆ》くのはいやだ、と思って七所借《なゝとこが》りをしても、鉄の草鞋《わらじ》を穿《は》いて歩いても、押詰《おしつま》った晦日前、出来ないのは暮の金だ、おめえ本当に覚悟を極めたら己と一緒に死んでくれないか」
 村「えー本当、どうも嬉しいじゃアないか、私も実は一緒に死にたいと思っても、お前さんに云うのが気の毒で遠慮していたが、お前さんと一緒なら私ゃ本当に死花《しにばな》が咲きます、友さん本当に死んで下さるか」
 友「静かにしねえ、死ぬ/\と云って人に知れるといけないから、斯《こ》う云う事なら金でも借りて来て総花《そうばな》でもして華々しくして死ぬものを、たんとは無いが有りッたけ遣《や》って仕舞おうじゃないか、お前も遣ってお仕舞い」
 村「死ぬには何《なん》にも入らないから笄《かんざし》も半纒《はんてん》も皆《みん》な遣って仕舞います」
 友「それでは其の積りで」
 村「本当かえ、嬉しいねえ」
 と迷《まよい》の道は妙なもので、死ぬのが嬉しくなって、お村は友之助の膝に片手を突いて友之助の顔を見詰めて居りましては又ホロリ/\と泣きます。其の時に廊下でパタ/\と音がするから、人が来たなと思い、それと気を付ける時、
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