》しばかりも何《ど》の位飲ましたか知れやしません、芸を仕込めば物覚えが悪く、其の上|感所《かんどころ》が悪いもんだから、撥《ばち》のせい尻《じり》で私は幾つ打《ぶ》ったか知れません、踊《おどり》を習わせれば棒を呑んだ化物《ばけもの》を見たように突立《つッたッ》てゝしょうが無かったのを、漸々《よう/\》此の位に仕上げたから、これから私が楽をしようと思ってるに、否《いや》も応《おう》もあるものか、親の言葉を背く餓鬼ならば女郎《じょうろ》にでも叩き売って仕舞います、利《き》いた風《ふう》な、芸一方で売るって私は知らねえ振りをしていれば、手前《てめえ》の好いた男なら上流《うわて》くんだりまで往って寝泊りをして来やアがるだろう、私は知るめえと思ってようが、芝口《しばぐち》の袋物屋の番頭に血道を揚げて騒いでいやアがる癖に」
 月「まア静《しずか》におしよ、世間へ聞えると見《みっ》ともない、お村はんは私が篤《とっ》くり意見をして得心させるから私にお任せよ」
 と泣いて居りまするお村の手を取って二階へ連れて上り、
 月「お村はん勘忍しておくれよ、本当に邪慳《じゃけん》なお母《っか》さんだ、太い煙管でお前の顔を無茶苦茶に打《ぶ》って怪我でもしたら何《ど》うする積りなんだろう、怖いお母さんだねえ、今までお前はまア能くあのお母さんの機嫌を取ってお出《いで》たねえ」
 村「姉さん、誠にお前さんの云う事を肯《き》かないで済みませんが、私も七歳《なゝつ》から育てられ、お母さんの気性も知っていますが、彼様《あんな》邪慳な人は世に余《あん》まり有りません、此の頃のように寒い時分に夜遅く帰って来れば、寝衣《ねまき》を炬燵《こたつ》に掛けて置いて寒かろうからまア一ト口飲めと、義理にも云うのが当然《あたりまえ》だのに、私が更けて帰ると、お母さんは寝酒に旨い物を喰《た》べてグウ/\大鼾《おおいびき》で寝て仕舞い、火が一つ熾《おこ》ってないから、冷たい寝衣を着て寝てしまい、夜が更けるからつい朝寝をすると、起ろ/\と足で蹴起《けおこ》して、お飯《まんま》を炊けと云って御膳を炊くやらお菜拵《かずごしら》えをして仕舞うと、起きて来て朝から晩まで小言|三昧《ざんまい》、ヤレ彼《あ》の旦那を取れ、此の旦那の妾になれと今まで云われた事は何度あるか知れやしないが、漸々《よう/\》云抜けては置いたが、辛くって/\今日は駈出
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