金魚を探すようで、女の脊中を撫でたりお尻《しり》を抓《つね》ったりします。彼《か》の女は悪党でございますから、突然《いきなり》に番頭の手拭を引奪《ひったく》って先へ上って仕舞いましたゆえ、番頭は彼《あ》の手拭を八つに切って一ツはお守へ入れてくれるだろうと思っていると大違いで、女は衣類《きもの》を着て仕舞い、番台の前へ立ちましたが、女の癖に黥《いれずみ》があります。元来此の女は山《やま》の浮草《うきくさ》と云う茶見世へ出て居りました浮草《うきくさ》のお浪《なみ》という者で、黥|再刺《いれなおし》で市中お構いになって、島数《しまかず》の五六|度《たび》もあり、小強請《こゆすり》や騙《かた》り筒持《つゝもた》せをする、まかな[#「まかな」に傍点]の國藏《くにぞう》という奴の女房でございますからたまりません、
 浪「一寸《ちょっと》番頭さん」
 番「へい、なんでございます」
 浪「あの少し其処《そこ》ではお話が出来ないから此処《こゝ》へ下りておくれよ、毎晩私に悪戯《いたずら》をする奴があるよ、私の臀《しり》を抓ったり脊中を撫でたりするのはいゝが、今日は実に腹が立ってたまらないから、其奴《そいつ》を此処へ引摺り出しておくれ、私も独身《ひとりみ》じゃアなし、亭主《ていしゅ》もあるからそんな事をされては亭主に対して済みません、引出しておくれよ」
 番「誠にお気の毒様でございますが、込合う湯の中でございますから、あなたがその人の顔を覚えて入らっしゃらないでは、此処へ出ておくんなさいと云っても、誰《たれ》も出る者はありませんから分りません、へい」
 浪「さア証拠のない事は云わないよ、其奴の手拭を引奪って来たから手拭のない奴を出しておくれ」
 番「へい、誰方《どなた》ですか、そんな悪戯をして困りますなア、どうか皆さんの中《うち》で手拭のない方はお出なすって下さい」
 男「おい番頭さん己《おれ》は手拭を持ってるよ」
 番「宜《よろ》しゅうございます」
 男「己のもあるよ/\」
 番「宜しゅうございます」
 と云って皆《みん》な出て仕舞ったが、中に一人九兵衞さんと云う人ばかりは出られませんから、窃《そっ》と柘榴口《ざくろぐち》を潜《くゞ》って逃げようと思うと、水船の脇で辷《すべ》って倒れました。
 男「おい/\番頭さん見てやれ/\、長く湯に入《へえ》っていたものだから眼が眩《まわ》って顛倒
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