乏人は難渋しますなア」
文「だがのう、雪は豊年の貢《みつぎ》と云って、雪の沢山降る年は必ず豊年だそうだ」
森「へー法印様がどうしますとえ」
文「なアに雪が降ると麦作が当るとよ」
森「八朔《はっさく》に荒れがないと米がとれやすとねー、どう云う訳でしょうなア、雨が氷っているのを天でちっとずつ削り落すのかね」
文「馬鹿云え、下《くだ》り飴《あめ》じゃアあるまいし、これは天地|積陰《せきいん》温かなる時は雨ふり寒なる時は雪と成る、陰陽|凝《こっ》て雪となるものだわ、それに草木の花は五片《ごひら》雪の花は六片《むひら》だから六《むつ》の花というわさ」
森「なんだかむずかしくって分らねえが、今日の客は気の利かねえ奴だ、帰《けえ》る時に大きい物でグーッと飲ませればいゝに、小さいもので飲ませたから直ぐ醒めて仕舞って仕様がありゃアしねえ、あれだから田舎者は嫌いだ」
文「これ、人の御馳走になっていながら悪口《あっこう》を云ってはいかんよ」
森「成程こいつアわるかった、時々|失策《しくじ》りますなア」
と話をしながら天神の所まで来ますと、手拭を被《かぶ》って女が往ったり来たりしているから、
文「森松や、彼処《あすこ》に女が居るようだなア」
森「へー雪女郎《ゆきじょうろ》じゃアありませんかえ」
文「なアに雪女郎は深山《しんざん》の雪中《せっちゅう》で、稀《まれ》に女の貌《かお》をあらわすは雪の精なるよしだが、あれは天神様へお百度でも上げているのだろう」
森「それじゃア大方縁遠いのでしょう」
文「何故え」
森「寝小便か何かして縁付く事が出来ないから、それでお百度を上げているんでしょう」
と云う中《うち》にプーッと垣際へ一《ひ》と吹雪吹き付けますると、彼《か》の娘は凍えたと見えまして、差込んで来る癪《しゃく》に、ウーンと云って胸を押えて、天神様の塀《へい》の所へ倒れましたから、
文「あれ/\女が倒れたな」
森「うっかり側へ往って尻尾《しっぽ》でも出すといけませんぜ」
文「おゝ是は冷えたと見えて、可愛そうに、何所《どこ》ぞへ往って温ためてやればいゝだろう、手前の傘をつぼめて己《おれ》の傘を差掛けろ、彼《あ》の女を抱いて往ってやろう」
森「お止しなさい、掛合《かゝりあ》いにでもなるといけませんぜ」
文「なアに捨置く訳にはいかん」
と云って力は七人力あるか
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