お掃除の時、ひょっとして引出へでもお取仕舞《とりしまい》になって居《お》ろうかと心得申すので、どうか彼《あ》の様に弱い奴でございますから、不憫《ふびん》と思召して百両返して下さらぬでは友之助は立行《たちゆ》きませんから」
 蟠「黙れ、苟《かりそ》めにも一刀流の表札を掛けたる大伴蟠龍軒、町人|風情《ふぜい》の金を欺いて取ったと云うは無礼な奴、不埓至極」
 と側にあった一合入りの盃《さかずき》を執《と》りました。前には能くお屋敷で陶器《やきもの》の薄出《うすで》の盃が出ました。上が娘の姿、中は芸妓の姿、一番仕舞が娼妓《しょうぎ》の姿などが画《か》いてあり、周囲《まわり》は桜の花などが細かに描《か》いてあります。其の一番下の一合入の盃をとってポーンと投付けると文治郎も身をかわして除《よ》けたが、投げる者も大伴蟠龍軒、狙《ねら》い違《たが》わず文治郎の月代際《さかやきぎわ》へ当ると、今とは違い毛がないから額《ひたえ》の処へ斯《こ》う三日月《みかづき》なりに瀬戸物の打疵《うちきず》が出来ました。するとポタ/\と血が流れ、水色染の帷子へぽたり/\と血が流れるを見て文治郎はっと額《ひたえ》を押え、掌《てのひら》を見ると真赤に血《のり》が染《そ》みましたから、此奴《こやつ》不埓至極な奴、文治郎の面部へ疵を付けるのみならず、重々《じゅう/\》の悪口雑言《あっこうぞうごん》、斯《かゝ》る悪人を助けおかば旗下《はたもと》の次三男をして共に大伴の悪事に染《し》みて、非道の行いを見習わせれば実に天下の御為《おんため》にならぬ、捨置きがたき奴、此の兄弟は文治郎|此処《こゝ》に於《おい》てずた/\に斬り殺し、悪人の臓腑《ぞうふ》を引出して遣《や》ろうと、虎も引裂《ひっさ》く気性の文治郎、耐《こら》え兼て次の間にあります一刀に目を付けるという、これからが喧嘩になります。

  十三

 申続《もうしつゞ》きましたる浪島文治郎は、大伴蟠龍軒と掛合になり、只管《ひたすら》柔かに下から縋《すが》って掛合ますると、向うは元より文治郎が来たらば嬲《なぶ》って恥辱を与えて返そうと企《たく》んで居《お》る処でございますから、悪口《あっこう》のみならず盃を取って文治郎の額《ひたえ》に投付けましたから、眉間《みけん》へ三日月|形《なり》の傷が出来、ポタリ/\と染め帷子へ血の落ちるのを見ますると、真赤になり、常は虎も
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