お方は一向存じませんから、仰《おっ》しゃりおいて宜しい事ならどうか仰しゃりおきを願います」
國「些《ちっ》とあなたのお耳へ入れては御心配でございましょうが、彼処《あすこ》に寝て居りますのは私《わっち》の嚊《かゝあ》で、昨晩間違いが出来ましたと云うのは、湯の中で臀《けつ》を撫でたとかお情所《なさけどころ》を何《ど》うとかしたと云うので、亭主のある身でそんな真似をされちゃア亭主の前《めえ》へ済まねえと云って、其の男に掛合って居る処へ、此方《こちら》の旦那が来て私《わっち》の嚊を拳骨《げんこつ》で廿とか三十とか打《ぶ》って、筋が抜けたとか骨が折れたとか、なアにサ、何《なん》だかこんな事を申しやすと強請騙りにでも参った様に思召《おぼしめ》すだろうが、そう云う訳ではありませんが、お恥しい話ですが、其の日/\に下駄を削って居ります身分ですから、私《わっち》が看病をすれば仕事をする事が出来ねえ、仕事をする事が出来なけりゃア食う事が出来ねえが、此方《こちら》は御身分もありお宅も広うございやすから、どうかお台所の隅へでも女房を置いて重湯でも飲ましておいてくれゝば、私《わっち》も膏薬の一貼《ひとはり》位《ぐれ》えは買って来ますから、どうかお預りを願います」
母「はい/\、それは誠にお気の毒様な訳で、嘸《さぞ》御立腹な訳でございましょう、仮令《たとえ》どのような事がありましても人様《ひとさま》の御家内を打擲《ちょうちゃく》するとは怪《けし》からん訳でございます、若年の折柄《おりから》人様に手を掛ける事が度々《たび/\》ありまして意見もしましたが、どうも性分で未《ま》だ直りません、どのようにも御看病もしとうございますが、私《わたくし》も寄る年で思うようにも御看病が届きませんと、御病人の癇《かん》が起りますものでございますから、お医者も此方《こちら》からお附け申しましょうし、看病人も附けましょう、又あなたがお仕事をお休みになれば日々どれだけのお手間料が取れますか知りませんが、お手間料だけは私《わたくし》の方から」
國「いえ/\飛んでもねえ事を仰しゃる、此方からお手当を戴き嚊を宅《うち》へ置いて看病をすると、私《わっち》も堅気の職人ですから、そんな事が親方の耳へでも入《へえ》れば、手前《てめえ》は遊《あす》んでいて他から銭を貰う、飛んでもねえ奴だ、向後《きょうこう》稼業《かぎょう》を構う
前へ
次へ
全161ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三遊亭 円朝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング