いき》を吐《つ》いて、それから二|日《か》の一|番《ばん》汽車《きしや》で京都《きやうと》へ御随行《ごずゐかう》をいたして木屋町《きやちやう》の吉富楼《よしとみろう》といふ家《うち》へ参《まゐ》りました、先方《せんぱう》では貴顕《きけん》のお客様《きやくさま》ですから丁寧《ていねい》の取扱《とりあつか》ひでございましてお上《かみ》の方《かた》はお二階《にかい》或《あるひ》は奥座敷《おくざしき》といふので私《わたくし》は次《つぎ》の室《ま》のお荷物の中の少々《せう/\》ばかりの明地《あきち》へ寐《ね》かして頂《いたゞ》く事に相《あひ》なりました。
扨《さて》六日《むいか》には泉山《せんざん》といふ処《ところ》へお出掛《でか》けになるに就《つい》て、私《わたくし》もお供《とも》をいたし四条通《しでうどほ》りから五条《ごでう》を渡《わた》り、松原通《まつばらどほ》りから泉山《せんざん》に参《まゐ》りまするには、予《かね》て話に聞いて居《を》りました、夢《ゆめ》の浮橋《うきはし》といふのを渡《わた》りました、二三|町《ちやう》参《まゐ》つて総門《そうもん》を這入《はい》り夫《それ》から爪先上《つまさきあが》りに上《あが》つて参《まゐ》りますると、少し広《ひろ》い処《ところ》がございまして、其処《そこ》に新築《しんちく》になりました、十四五|間《けん》もある建家《たていへ》がございました。是《これ》は此《こ》の時のお掛《かゝ》りの方々《かた/″\》のお詰所《つめしよ》と見えまして、此所《こゝ》で御拝《ぎよはい》があるといふことを承《うけた》まはりました。実《じつ》に此度《このたび》の大喪使長官様《たいさうしちやうくわんさま》といふのは、夜《よる》もトロ/\睡《まど》ろみたまふ事もございませんといふ、大層《たいそう》御丁寧《ごていねい》に仰《おつ》しやいますから、私《わたくし》どもには些《ち》と舌《した》が廻《まは》らなくつて云《い》ひにくいくらゐで、御参列《ごさんれつ》のお役人《やくにん》も此《こ》の処《ところ》で御参拝《ごさんぱい》があるといふ事で、夫《それ》を思ふと私共《わたくしども》は有難《ありがた》い事で、お供《とも》をいたして参《まゐ》りましても毎日々々|旨《うま》い物《もの》を御馳走《ごちそう》になつて、昼《ひる》も風が吹くと外へ出られんといふので、炬燵《こたつ》の中で首《くひ》ツたけ這入《はい》つて当日《たうじつ》まで待《まつ》て居《を》るのでございますから此《こ》のくらゐ結構《けつこう》な事はございません。又《また》折々《をり/\》は其《そ》のお方《かた》のお供《とも》をいたして、大坂《おほさか》で有名《いうめい》な藤田様《ふぢたさま》の御別荘《ごべつさう》へ参《まゐ》りまして、お座敷《ざしき》を拝見《はいけん》したり、御懐石《ごくわいせき》を頂戴《ちやうだい》した跡《あと》で薄茶《うすちや》を頂《いたゞ》いたりして、誠に此上《このうへ》もない結構《けつこう》な事でございます。丁度《ちやうど》七|日《か》の御当日《ごたうじつ》は往来止《わうらいど》めになるだらうと聞きましたから、昼飯《ひるめし》を食べて支度《したく》をいたし、午後二時ごろから宿《やど》を出ましたが、其処《そこ》までは人力車《くるま》で行《ゆ》かれる処《ところ》で、参《まゐ》りました処《ところ》は堺町《さかひちやう》三|条《でう》北《きた》に入《い》る町《まち》といふ、大層《たいそう》六《む》づかしい町名《ちやうめい》でございまして、里見《さとみ》忠《ちう》三|郎《らう》といふ此頃《このごろ》新築《しんちく》をした立派《りつぱ》な家《うち》で、此処《こゝ》は御案内《ごあんない》の通《とほ》り古器物《こきぶつ》骨董《こつとう》書画類《しよぐわるゐ》を商《あきな》ふ方《かた》で中々《なか/\》面白《おもしろ》い人でございます。何《ど》うも諸方《しよはう》から頼《たの》まれたと見えまして、大分《だいぶ》に宜《よ》いお客様もございます。西京《さいきやう》大坂《おほさか》の芸妓《げいこ》も参《まゐ》つて居《を》りましたが、皆《みな》丸髷《まるまげ》で黒縮緬《くろちりめん》の羽織《はおり》へ一寸《ちよつと》黒紗《くろしや》の切《き》れを縫《ぬ》ひつけて居《を》りまして、其《そ》の様子《やうす》は奥様然《おくさまぜん》とした拵《こし》らへで、皆《みな》其処《そこ》に寄り集まつてお通《とほ》りの時刻《じこく》を待《ま》つて居《を》りますので、其《そ》の中《うち》に五《ご》もく鮨《ずし》が出たり種々《しゆ/″\》御馳走《ごちそう》が出《で》ます中《うち》にチヨン/\と拍子木《ひやうしぎ》を打つて参《まゐ》りました。何《なん》だらうと思つて直《すぐ》に飛出《とびだ》して格子
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