た男はお諦めあそばせ」
と慰むれば、
嬢「あれ程迄にお約束をしたのに、今夜に限り戸締りをするのは、男の心と秋の空、変り果てたる萩原様のお心が情《なさけ》ない、米や、どうぞ萩原様に逢わせておくれ、逢わせてくれなければ私は帰らないよ」
と振袖を顔に当て、潜々《さめ/″\》と泣く様子は、美しくもあり又|物凄《ものすご》くもなるから、新三郎は何も云わず、只《た》だ南無阿弥陀仏《なむあみだぶつ》、南無阿弥陀仏。
米「お嬢様、あなたが是程までに慕うのに、萩原様にゃアあんまりなお方ではございませんか、若《も》しや裏口から這入《はい》れないものでもありますまい、入らっしゃい」
と手を取って裏口へ廻ったが矢張《やっぱり》這入られません。
九
飯島の家《うち》では妾のお國が、孝助を追出すか、しくじらするように種々《いろ/\》工夫を凝《こら》し、この事ばかり寝ても覚めても考えている、悪い奴だ。殿様は翌日|御番《ごばん》でお出向《でむき》に成った後《あと》へ、隣家《となり》の源次郎がお早うと云いながらやって来ましたから、お國はしらばっくれて、
國「おや、いらっしゃいまし、引続きまし
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