でに嬉しいか可愛《かわい》そうな奴だ」
 と飯島平左衞門は孝心に感じ、機《おり》を見て自《みずか》ら孝助の敵《かたき》と名告《なの》り、討たれてやろうと常に心に掛けて居りました。

        四

 さて萩原新三郎は山本志丈と一緒に臥竜梅へ梅見に連れられ、その帰るさに彼《か》の飯島の別荘に立寄り、不図《ふと》彼の嬢様の姿を思い詰め、互いに只手を手拭《てぬぐい》の上から握り合ったばかりで、実に枕を並べて寝たよりも猶《なお》深く思い合いました。昔のものは皆こういう事に固うございました。ところが当節のお方はちょっと洒落《しゃれ》半分に
「君ちょっと来たまえ、雑魚寝《ざこね》で」
 と、男がいえば、女の方で
「お戯《ふざ》けでないよ」
 又男の方でも
「そう君のように云っては困るねえ、否《いや》なら否だと判然《はっきり》云い給え、否なら又|外《ほか》を聞いて見よう」
 と明店《あきだな》か何かを捜す気に成っている位なものでございますが、萩原新三郎はあのお露どのと更に猥《いや》らしい事は致しませんでしたが、実に枕をも並べて一ツ寝でも致したごとく思い詰めましたが、新三郎は人が良いものですから
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