ません、あんな者の云う事をあなた取上げてはいけません、何《ど》うして草履取が奥の事を知っている訳はございません」
母「いえ/\お國や、その孝助は私の為には実の忰《せがれ》でございます」
 と云われて両人《ふたり》は驚き顔して、後《あと》へもじ/\とさがり、
母「さア、私が此の家《や》へ縁付いて来たのは、今年で丁度十七年前の事、元私の良人《つれあい》は小出様の御家来で、お馬廻り役を勤め、百五十石頂戴致した黒川孝藏と云う者でありましたが、乱酒《らんしゅ》故に屋敷は追放、本郷丸山の本妙寺《ほんみょうじ》長屋へ浪人していました処、私《わたくし》の兄澤田右衞門が物堅い気質で、左様な酒癖《さけくせ》あしき者に連添うているよりは、離縁を取って国へ帰れと押《おし》て迫られ、兄の云うに是非もなく、其の時四つになる忰を後《あと》に残し、離縁を取って越後の村上へ引込《ひきこ》み、二年程過ぎて此の家に再縁して参りましたが、此の度《たび》江戸で図らずも十九年ぶりにて忰の孝助に逢いましたが、実の親子でありますゆえ、段々様子を聞いて見ると、お前達は飯島様を殺した上、有金大小衣類まで盗み取り、お屋敷を逐電したと聞き、
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